町田が輪の中を覗き込む。

ガタガタと震える足がみえた、そばにはコーヒーカップが転がってコーヒーがこぼれ床を濡らしている

「おい!しかっりしろ!」

(え!!なんで?)

「小林!!しっかりしろ!今救急車よんだからな」

震えつづける小林を同僚の捜査官が励ます。その傍らに白いパンツにコーヒーのシミがついた

仲元が立っていた。

「仲元君どうしたの?」

「いや、小林さんに僕がぶつかって、そうしたら、急に震えだしたんだ。」

小林は3つ上の先輩だ。今回の捜査で初めて仕事を共にする。

まだ、そんなに話もした事は無いが、突然倒れたのは穏やかではいられなかった。

捜査本部のオフィスの中は嫌な緊張感で満たされた。

小林の瞳は真っ赤に熟れたトマトの様だった、その瞳からは果汁が溢れるように涙がこぼれていた。

町田は、その様子を見て佐久間香苗を思い描いた、あの孤独で壮絶な死がフィールドバックしてきたのだ。

「はやく救急車!!」

思わず叫んでしまった。他の捜査員も同じことを考えたのだろう、一人また一人と後ずさりしていく。

「小林!!小林!!」

彼の肩を揺するのは長年小林と組んでいた井本だった。

小林の痙攣はどんどん酷くなっていく、泡のような唾液が口から首元を伝う。

「キイイイイイイイ」

意識がなくなって言葉にならない声がオフィスに響きわたる。

もう、小林の半径1メートルに居るのは井本だけだった。

「井本!!!離れろ!!!」

上司の田岡が叫んだ。

「小林!!も少しだ!がんばれ!」

その声が耳に届いていないのか、井本は離れようとしない。

田岡が井本の肩を掴む

「おい!離れろ!すぐに救急隊がくる。もしかしたら、小林は・・・」

「なんですか!!離れませんよ!離してください」

井本の腕を何人かの同僚が掴み小林から離そうとしているが興奮した井本が暴れ

まるで犯人を確保するような形になってしまった。

床に頬をつけたまま小林の痙攣する様を見ながら井本は小林から引き離された。

「みんな部屋からでろ!!早く!!」

その声に我に返って町田は出口に向かった。

両脇を抱えられ井本はオフィスの外に連れ出された。

「もしもし、管理官ですか?至急感染疾病センターに連絡してください!緊急事態です」









いつの間にか、眠っていたのだろうか。

町田は辺りを見回した。捜査本部は疲れた捜査員が何人かいるだけだ。時間は昼の1時を回っていた

夜勤には慣れたがこのところ捜査は進展してはいなかった。

大佐古徹殺害後は犯人からの怪文書もなく、またウイルスの出どころもわからない

少人数の捜査はなかなか進まない。

「町田さん、起きたの?本当は寝たら起こさないといけないんだけど、あんまりスヤスヤ寝てたから
いいかなって、思ってね。」

コーヒーを片手に仲元が言った。

(あ・・そうだ。今日は仲元さんと一緒だった)

まだ、寝ぼけた顔で仲元を見上げた。

「すみません。どのくらい寝てしまいましたか?」

「大丈夫だよ。ほんの10分くらいだから。」

書きかけの書類の上につっぷしたようで頬にインクが付いている。

仲元がインクの付いた頬を指さしクスクス笑った。

町田は、急いでトイレに向かった、(みんなに笑われちゃうかな、仲元君おしゃべりだからな・・・)

インクは丁度ちょび髭を頬まで書いたように伸びていたのだ。

(もう~なかなか落ちないな・・・)

ハンカチを濡らし擦っていると頬と鼻の下があかくなった。

いつの間にかインクが口に入ったのかインクの味がする。

(やだな~これじゃお化粧も、とれちゃったよ)

しばらく、格闘したがほんのり残ってしまった顔に諦めをつけへやにもどった。

捜査本部がざわつき部屋の中心に人の輪が出来ている。

「おい!だいじょうぶか?」

「救急車に電話しろ!!!」

「はい!」

(え?何事???)
その後の病院は、平穏を取り戻すことができた。

院長が感染症センターにサンプルを送る判断をし、その患者は今は霊安室で静かに眠っている。

「田上先生大変だったね。」

院長が声をかける。

「ええ・・あまり経験がないスピードで急変しましたから、おどろきました」

「そうだろうね。ご苦労様。」

田上の疲れた顔をみて、優しくねぎらいの言葉をかけた。

「今後の事はまた、話し合いが必要になってくるだろうが、今日のところは帰って休みなさい。」

「はい、有難うございます。そうさせていただきます。

そう言うと院長は離れていった。

(ふ~なんだったんだろうか・・・?あの病状は)

今になって田上に恐怖心が湧いてきた。

(感染症だよな。でも、なんのウイルスかは現状分からないし・・・血を浴びてしまった
あと、どれくらいが潜伏期間になるのだろうか?)

考えれば考えるほど、怖くなってしまうパニックに陥りそうになる。

(やめよう。検査結果が出ていないうちから怖がっても・・・。)

静まり返った病棟の広い渡り廊下に一人立ち尽くす。

はめごろしの大きな廊下のガラスに自分が映っていた。後ろに黒い影が見えた気がして、

田上は思わず振りかえった。