夜の10:45分を少しまわったころだった。鈴虫が羽を擦りながら歌い、生ぬるい風が吹き込んでいた
母は、クーラーが苦手で、本当に寝る前に少しの時間寝室にクーラーをかける。

僕は自分の部屋にはいつも、クーラーを入れている。
「そんなに、冷やさないでね。たーくんはお腹弱いんだから。」
母の口癖。



「母さん、誰からの電話?ねえ」

「警察から・・・高橋さん、亡くなったって。」

「え???」
「何で?
「どうして?」

「お母さんにも詳しい事はわからない。ただ、あなたと明日話がしたいと警察の人が言ってたわ」

「は???何で僕?」

「今日塾で、一緒だった人みんなに話を聞くみたい。」

「・・・・・・・」

(鈴虫うるさい・・・)

「何で?事故?病気?」

「わからないわよ。大きな声で言わないで」

(鈴虫うるさい・・・)

「とにかく、明日午前10時に家に来るわ。」

母は、潔癖症だと僕は思う。こんな、急な話の中掃除を始めた。
もう、洗うものなど無いキッチンに向かい何かを洗い出した。

2階の自分の部屋に向かった。頭の中は混乱し始めていた。
何故?だけが渦巻いていた
母の動揺の仕方は何か聞いているのだと思った。でも、今話してもきっと誤魔化されるか
ヒステリーを起こすかどちらかだろ。

まずは、誰かに聞いてみよう。
その日の、夜塾から、帰ると家に電話があった。
友達なら、中3にもなれば携帯電を持っているから家に電話がかかってくるなんてほとんど無い。

何処からだろう?

母はずっと「はい」と「いいえ」と「わかりません」
としか、言わなかった。

電話を切った。

「たーくん、ちょっと来てくれない?」

母のこの呼び方直してほしいな・・・。僕は達弥だから
たー君じゃないから。

「ねえ、たーくん高橋みなさんって知ってる?」
「塾のクラスの子?」
「女の子よね?」
「今日、塾きてた?」

すごく、早口になっている。口元の当てた手が小刻みに震えている様に見える
何故だろう?

「・・・・?」

なんのこと?高橋みな?

「たーくん、知ってる?」

「知ってるし、今日塾で、話したよ」
「何で?」

「そう・・・」
母さんの手の震えはますます、酷くなっていくみたいだ。

「何で?母さん、誰からの電話?」

(なんだよ~痛いな)
心の中でつぶやいた。後ろの席の高橋みな。あと1文字つけば、アイドルと同じ名前
まあ、そのほうが、少し面倒かな・・・たぶん、からかわれたりするだろうし。

でも、本当にブスなわけじゃない。実際高橋みなを好きで塾に来ている男子も多いと聞くし
僕から見てだけど、明るい。話が好き。友達は数えるのが面倒になるくらいいるみたい、
なんか、ちょっと、嫌になるくらい性格も良いと思う。

僕にも、少し分けて欲しいと思うくらいの明るさ。

僕の好きな彼女とは、ちょっとタイプが違うな。彼女は、少ないけど気心がしれた友達と
楽しそうに話す。やさしい感じ

(安らいじゃうよな~)

「はい、配られたプリントは抜き打ちテストだから、まだ表にかえさないで~」

「え~」
「聞いてないよ~」

「はいはい、だから抜き打ちなの・・・」

ザワザワ・・・この加藤先生はいつも、こんな感じ。
生徒が嫌がるの知っててこんなテストをしたがる。

(勘弁してよ~マジやる気なくなる)

「今日は、現代文のテストね~。先週やったでしょう。復習しといてと話したよね。」

「聞いてません~」

「俺も~」
なんだか、今日はみんな反抗的だぞ?暑いから?

「でも、テストなの。じゃ、あと5分後のPM1:00から開始にします。その間教科書見てもいいです。では、始め」

ガザガサ・・・・

(5分で何ができる?)

なんだかんだ、言っても教科書に目を落とす。

僕、現文苦手なのにな。

西日の当たり始めた8月の下旬。

普通の生活が恋しくて、懐かしい。あの日の午後の笑い声や、頭をこつんと、ぶつけた恥ずかしさ。

もう、戻れないのかな。

戻れないな・・・。