携帯電話にはすでに20数件のラインが入っていた。

ほとんど高橋みなについての憶測。みんな事実を探しているようだ。

ジージー蝉の声がずーと聞こえている。部屋の中はクーラーを入れ忘れたのでかなり温度は高くなっていた。

本当は僕には4歳違いの妹がいた。潤。

妹があの夏いなくなった。もう、2年前になる。

まだ3年生だった。妹が見つかったのは、いなくなった日から10日後だった。

その年も今年の様に暑い日が何日も何日も続いた。

僕は中学1年で初めての部活に毎日参加して、妹が居なくなった日も部活に出ていた。

何故か妹が見つかった場所はここからかなり離れた河川敷のやぶの中からだった。
夏の河川敷は水草や雑草などが伸び放題のところも多く、発見には何日もかかり、もうほとんど僕の妹とはわからないところまで、変わっていた。

それでも、葬儀屋などができる限りのことをしてくれたのでありがたかった。

なぜ?・・・潤が殺されたのか・・・?母も父も僕も。

それだけを考え、そして、この現実をどうやったら、変えられるのか。
毎日苦悩した、心はどんどん崩壊していく。

全てのことが、聞こえないし、見えない。

8月29日妹潤が居なくなった日。9月8日河川敷で蛆だらけで顔は満月みたいに膨らんだ妹が見つかった日。

僕の家族は2年前の8月28日までごく普通の家族だった。

その年はみんなで、7月の終わりに旅行に行ってきたんだ。6泊8日のハワイ。
父が休みをとったから、僕は強制的に部活を休まされ家族旅行につきあった。
母も潤も新しい水着やリゾートぽい服をずいぶん前から買いに行ったりして、とても行けないなんて言えなかったのを覚えてる。

ハワイは我が家の女性陣の希望で、父は娘の潤や母さんがはしゃぐ姿を見ては旅行のスケジュールを考えて、時々僕にも相談した。

「どこに行こうか?」

「レンタカーはあったほうがいいよな?」

「何がおいしいのかな?ロブスター?」

「それ、たべた~い。潤食べたことある?パパ?」

「ないよ、でもすごく大きいエビだぞ~」

「僕も、食べたいな~。」

「あら、部活が・・・なんて言ってたのに食べ物には反応良いんだね?おにいちゃん」

「・・・潤・・・うるさいぞ」

「はいはい、みんなで行こうね。お母さんはフルーツも食べたいな」

「なんだ?みんな食べることばっかりだな?」

涙が、こぼれ落ちた。いつも、隣にいた家族がいない。喪失感は犯人への憎しみに変わっていった。
どうやったら、潤が受けた恐怖を何倍にもして返すことが出来るのだろうか?

まだ小学3年生の妹にいたずら・・・そんな、生易しいものではないな。レイプしそのうえ
犯行を隠そうと衣服をすべて取り上げ。顔を殴った、骨は陥没していた。

汚い水たまりに妹を捨てた、ただ自分の欲望に妹を使った。

また、頭の中がおかしくなった。黒い渦がまわり、胃のあたりがギュッと締め付けられる
吐きそうになる。

(おおおおおおおおおおおおお)

心の中で叫び続けた。

(殺してやる殺してやる)

止まらない犯人への殺意。





(っそんなわけないだろ。)

「なにか、思い出すことなんかあったらここに、電話して後ろに僕の携帯電話番号も書いておくから。」

田岡はそう話すと名刺の裏に電話番号を書き始めた。

(たぶん、かけることは無いだろうな・・・)

「はい。わかりました。ご苦労様でした。」

「いえいえ、こちらこそ朝からすみませんでした。また、なにかありましたらお話聞かせて頂くとは思います。その時はよろしくお願いします」

「はい・・・」

「なんのお構いもできませんで、すみません。」

母は引き立てのコーヒーとロールケーキを出していた、僕と刑事が話している間ずっと台所の母の隠れ家のような場所にずっといた。

話を聞いてはいたが一言も口を挟むことなくじっとしていた。女刑事の町田は時折そんな母を凝視していた。

「失礼いたします。」



ドアが閉まり僕は少しホッとした。何もしてないけどなんだかすごく緊張した。

でもこんなもんなんだな・・・。もっと緊迫してるのかと思った、町田さんと田岡さん
始めて刑事の本物見ちゃった。

そういえばライン気にしてたな。携帯見てみようかな。みんなの所にもこれからいくのかな

「母さん僕部屋にいくから・・・」

「ええ、わかったわ。たー君大丈夫?」

「うん、平気。」

「お母さんは怖かったわ。あの町田って刑事さんずっとお母さんのこと見てるんですもの・・・。もう一人の刑事さんもなんだかヤクザみたいだしテレビドラマの感じとはちょっと違うわね。それに、ケーキもコーヒーもお母さん朝一番に急いで買いに行ったのに・・・
手もつけずに・・・本当に嫌だわ・・・」

母はこのところ、少しずつ壊れはじめた。とても早口になり、うろうろし始めたかと思うと台所でずっと一人で掃除をしている。食事はもう10日間はコンビニかお弁当屋。

どこか、汚れていると落ち着かなくなるので、父が食事のことはそう決めた。

母親ならば、自分の子供と同じ年の子供が死んだ訳だし
ましてや、殺害されたならその子を悼む言葉や両親へのなぐさめや、心情を考えるなどの言葉や行動をすると思うが、母にはたぶんその考えは無いのだろう。

「母さん僕部屋にいくよ。」

「・・・まったくなんで家まで来るのかしら・・・まったく嫌だわ・・・」

聞いてないな・・・


(なに?なに?僕疑われてるの?)


「佐々木君。もう夏休みも終わりだね。」
「はあ・・・」

「私なんて今の時期必死で宿題やってたな・・・」
「はあ・・・」

「おじさんの頃とは、今の中学生はだいぶ違うよね。ラインだっけ?あーゆうもの無かったもんな・・・君はラインやらないの?」
「はい・・やります」

(やっぱり・・・)

「ふーん。ラインてどんな仕組みなの?いや、ぼくにもこどもがいてね、まあ娘なんだけど
最近、スマホに変えたんだが携帯電話ばかり、見ていて・・・ああこの間のニュースで携帯依存の中高生が多いみたいだね。佐々木君の周りもそんな感じなのかな?」

髭の残る顎をザラザラ鳴らしながら、田岡健治警部は話した。本庁の刑事になって20年
もう、髭にも白髪が混じる年になってキャリアではないから、警部は出世の最終段階。

でも、今回は自分の娘と年の変わらない少女の殺人事件。

沢山の殺しのヤマの中でも子供のヤマはやはり冷静になれない。
この佐々木達弥という少年がこの事件にどれほど関わっているかは、未知数だが今回組んだ埼玉県警の新人に毛が生えたような小娘に証言を潰されては困る。

せっかくの、シキカン成功させたい。だいたい、なんで2課のこの女刑事が俺の相方なんだ
普通1課から、増員かけるだろう。
まあ埼玉も人がいないからな。

「はあ・・・まあラインやってるやつは沢山いますよ。でも、ぼくは、高橋とはラインはほとんどしてないです。たまに塾のクラスラインで高橋が話してるのを見かけるぐらいだし
高橋は、友達も多かったから・・・。」
「うん、そうか。高橋さんを見てどんな印象だったんだい?」

「友達多い・・・まあかわいい・・・少しおしゃべり。でも、まだ信じられません
高橋本当に死んじゃったんですか?」

「僕、疑われる様なこと。マジでしてません。」

「疑っているとか、そうではないんだよ。高橋さんの周りにの人にいろいろ尋ねている段階なんだよ。」

(なんだ・・・そうなのか。)