田岡と町田は今日の分のシキカンを終え、署に戻った。

会議室にはPCが数台増え、FAXとコピー。

殺人事件は被害者の人数などで自員は変わってくるものらしい。
いつもの会議室が人でいっぱいだった。

蒸し暑いなか、クーラーはかけてはいたが人の多さと出入りの激しさでほとんど効いていない。

「では、会議の時間になります。各自報告お願いします。PM8:00より始めます」

事務方の若い婦警が初めての帳場に戸惑いながら声を張り上げていた。


「お疲れ様です。田岡さん」

ニコニコと手を振りながら、向かってきたのは田岡の後輩だがキャリア組の永作管理官だった。

「お疲れ様です。永作管理官」田岡はこの永作の1つ先輩だがキャリアの永作は田岡が何年もかけた警部への道をワンスッテプで上ってきたのである。

普通、ちょっとヒガミもあって仲が良くなることは少ないが田岡と永作はお互いに信頼関係を築けていた。

「今回のヤマは、なんだか酷い遺体だったようですね。なにか、わかりましたか?」

いまだに永作は田岡に敬語を使う。どうしても、変えられないのだろ。

「はい、管理官。厳しい事件になりそうです。」
「うーん、そうですか。詳しい事は会議でおねがいします。」
「はい」


浦和市内女子中学生殺害事件捜査本部


田岡が声をかける
「礼」
全員が礼をし着席する。緊張感が室内をつつむ。町田のように増員で初めて事件に関わる者も大勢いるのだから、仕方がない。

「では吉田副管理官事件の概要をおねがいします。」

永作に促され吉田は話し出した。

「では、一昨日8月29日浦和市内、調神神社において女子中学生高橋みな14歳が殺害された。

通報したのは、同市内の高校生渡辺郁16歳である。
部活が遅くなり自宅への近道をしようと、境内を歩いていたところ被害者を発見。その後通報した。
被害者高橋みなはその日は夏期講習の最終日で塾からの帰り被害にあったと推測される。

ここまでが、概要になる。」

「ここからは、今分かっている被害者の検視結果の説明に入る。」

「吉田さんお願いします。」

「鑑識の吉田です。被害者の死因、外傷その他遺留物などの説明をします。

被害者高橋みな14歳。死因頸部圧迫による窒息死。しかし、頸部約180度捻じられていたため
詳細は現在不明です。
また、外傷は手のひら、腕、足などから多数の創傷が認められるまた
性的外傷も認められた。

着衣、遺留品などは鑑識班が捜査中です。残念ながら今のところ犯人につながる唾液、血液、精液他のものはありません。 以上です」

「次、シキカンはどうでしたか?」

田岡は町田に発言させようかと、町田を見たが町田は完全に空気に飲まれているので、自分が話すことにした。

「はい、田岡です。本日午前10時より同級生で同じ塾に通う。佐々木達弥14歳に話を聞きに行

きました。佐々木達弥によると、犯行があった日8月29日の5時から5時30分の間に高橋みな

を最後に見かけたとのことでした。その時高橋みなと話をしていた。高岡由香14歳、鈴木かな1

14歳にも話を聞きましたが、事件との関わりがあるものとは思えませんでした。また、2人の塾を

出てからの行動にも疑問はありません。

田中勇次14歳も同じ塾でしたが、これも事件と関わりがある様子には見えませんでした。

以上です」

「うーん、何もでませんね・・・。」

室内が重くなる。初日から証拠だの証言など出る事なんて、ない。
分かっている。でも、ほんの少しでも何かでないものかと、永作は思ってしまう。
この状況・・・嫌な予感がしてしまう。

「では、引き続き捜査おねがいします。以上。解散」






趣味・・・嗜好・・・そんな言葉で縛られるのは本当に頭に来る・・・。

キリキリ・・・キリキリ奥歯がなる。

テレビは、嫌いだ。PCの方がまだ面白い。


昨日午後9時過ぎに埼玉県浦和市内において、中学3年生の高橋みなさん(14)が遺体で発見されました。高橋みなさんは当日は塾に通ってから帰宅する予定でしたが、帰宅が遅いことで捜索願がだされ、同日夜浦和市内で殺害されて発見されました。
浦和西署によると、「まだ、断定的なことはお話しできません。捜査に全力をあげます」とのことです。


何が、全力を尽くすだよ。(なにも掴んでないくせに)

日本の警察はぼくを理解できるわけないしな。

黒い部屋の中でPCの明かりが男の顔を照らす。

部屋の中は暗いだけで、汚れてはいない。食べかすや、飲み残しやゴミという類の物は一切ない。

どちらかといえばきれいな部屋であろう。

ただ、彼が記念品に持って帰った数々の物が壁の一面を飾っていた。

綺麗なガラスのショーケースに今までに彼に汚されてきた者たちの生きた証。

彼にとっては、宝物。ネックレス、指輪、ブレスレット、時計、ハンカチ、

細々したものは年代順に並べてある。

美しいその記念品と死を悟った時の顔を思い出す。

高揚する体と心。何回見ても、何時間思い出しても・・・・何度でもイケる。

僕が一番好きなのは、うさぎのハンカチだ。

まだ、あの子の匂いがする。

僕を捕まえられるはずがない、だって。

みんな馬鹿だから、何にだってなれる僕にみんな気づかない。透明だし、僕は、透明。

何人僕が殺しても見つからない。

最初に僕はターゲットを見つけに行く。でも初めから決めてない。その日、その時に気になる子を探す。これは、まるでハンターになった気分で楽しい。

人がいない時間なんて、街にはいくらでも存在する。

だから、見つけたターゲットの家まで楽々でついて行ける。その場で、なんて面白くもない。
でも、ジリジリとしたものは感じる。追いつめるまでの興奮と引き換えの時間。

家に帰って計画を考える。ここが一番興奮する。どこで声を掛けるか…緊張する・・・
どうやって、楽しむか・・・。

どこに、捨てるかまで考えない奴は多い。だから、捕まるんだ。
最後の最後まで計画をたて、そして実行。

それが、僕のすべて。

街に溶け込む時も、たまに持って歩く。うさぎのハンカチ・・・気づかないでしょ?

僕、連続殺人鬼・・・シリアルキラーだよ。

電車に乗ると余計に興奮する。隣にいる僕になんの警戒心もなくスマホに夢中な女子中高生や、親の薦めでまだ1~2年生の私立の小学生。いくらでも、楽しめる

でも、最近もっと楽しい事がしたくて、考えてしまう。

どうしようかな・・・・。

見つめる先にはこの間からマークしていた女の子が立っていた。










悲しいかな、いろいろ事件には関わってきた。若い頃は犯罪を自分の手で暴き、犯人に償いをさせていこう。治安を良くして、安全な日本にしたい。

なんて、夢みたいなこと考えていた。子供のころから警察官には憧れていた。

爺さんと一緒に行った夏祭りの夜、迷子になった。一人になった事で急に周りの大人たちが大きく怖く感じて、泣くことも叫ぶことも出来なかった。ただ爺さんがその日買ってくれた。首から下げる笛の玩具と綿菓子を握りしめていた。

すると、警ら中の若い警察官が話しかけてきた。「どうした?一人なのか?お父さんかお母さんは一緒ではないのか?」戸惑ったのを覚えている。まだ、小学1年か2年だった自分に制服姿の警察官が
話しかけてきた事、そして、質問の中に爺さんが含まれていなかった事、どうして自分が迷子になったかなど。どう説明したら、いいのか。分からなかった。

緊張して、玩具の笛を握りしめて、ただ若い警察官を見つめていた。
「どうした?大丈夫だぞ。心配しなくていいんだよ」
ポンッポンッと頭をやさしくたたかれた。

その途端張りつめていた気持ちが切れた。「じじと来た・・・」


よくある話だが、やはり俺には思い出だし、その時の事が今の自分の職業になんらかの影響は与えていると思う。何十年も前の事だが時々思い出す。

あの時の玩具の笛は爺さんと再会できた時、あの警察官に自分なりのお礼のつもりであげた。
「ありがとう。もう、はぐれるなよ」ポンッポンッとまた頭をなでられた。
「うん、またね。バイバイ」

何度も何度も爺さんは頭を下げていた。
爺さんに手を引かれながら、もうすっかり出店の明かりも消えてしまって、後かたずけにおわれる
人々の間を縫う様に、ぎゅっと握られた爺さんの大きな手が痛いかな、なんて思いながら早足で
家に帰った。


本当の現実は夢とはかけ離れていた。警察官になってからは色々な部署にに行く。
交通課、生活安全課、地域課、刑事課・・・・
研修、昇進試験の繰り返し。受験生をしながら仕事をこなす日々。

その中でのまた組織のしがらみも存在する。やりきれない事件を抱えてまた、試験の準備、人間性のない上司とのしがらみ・・・。自分の精神をまともに保つのが実際やっとだと感じることも
多かった。

でも・・・・自分の仕事が嫌いになった事はない。どこかにこの仕事をする自分を誇らしく思うところもまだある。だからこそ、今でも現場で働きたいと願っているのだろ。

歳・・・とったのかな・・・。