何故だろうか?田岡はこの男に言葉では表現できない感情を覚えた。

コンコン
助手席の窓を叩く、見ると男はすぐ傍に立ち大きめの傘を2本左手に持ってにこやかに田岡達を見下ろしていた。

「こんにちは。警察の方ですよね?傘、おもちですか?」

2本の傘を軽く持ち上げて、こちらの様子を見つめる。風が下した窓から勢いよく車内に流れ込んだ
雨交じりの強い風に、顔をしかめながら

「はい、大丈夫です。持っていますよ。塾の方ですか?」

「ああ、すみません。講師の加藤と申します。お困りかと思いまして・・・まあ、当然ですよね。台風ですもんね。」

ほんの少し、苦笑いし加藤は車を離れた。「中でお待ちしてます。」言い残すと小走りに塾の入り口に戻って行った。

「田岡さん、いきましょうか?」

「ああ、そうだな。」

どんどんと風が強くなっていく車の外へ田岡と町田は出ていく、雷も鳴り出した。
この近くまで台風は近づいて来ているようだ。

「なあ、町田さん、あの加藤っていう講師いつから待っていたのかな?事前に連絡は入れただろうけど細かい時間まで指定したのか?」

「いいえ、昨日連絡はしましたが、明日の午後とだけ話しました。時間を指定しても塾の時間割などの都合で決まった時間に話を聞けない講師も居るとのことで、午後の間話を聞ける講師や事務の人から聞いていく事になっています。到着は予定より1時間以上遅くなってますからかなり待っていたのでしょうか?」

塾の入り口に入り二人はおのおの、タオルなどで濡れたスーツを拭いていた、田岡は腕時計に目をおとす。
午後2時23分、予定では1時くらいにこちらに着くはずだった。

街のあちら、こちらで冠水が起きていて、迂回を何度となくしてやっと着いた

加藤は1時間以上も駐車場の見えるこの場所で待っていたのだろうか?

塾の入り口より、他に駐車場が見える場所は他になさそうだ。

もう、高橋みなが亡くなってから10日たった。

田岡と町田はそこそこいいコンビに成りつつあった。今日までのシキカンで重要な証言は取れていない。気持ちだけは焦ってしまう。

今日は高橋みなが通っていた塾の先生や、事務員に話を聞くことになっている。
車で、今日は移動することになった。

夏の終わりを告げる台風が関東に直撃すると、朝のニュースやラジオでも盛んに注意をうながしている

関東に直撃するとみられる台風12号は最大勢力1153ヘクトパスカル大変大きくなってきました。雨、風ともに強くコンパクトではありますが、台風の中心では風も強くなります。建物など屋内になるべく入るようにしてください。

車の中から見ると雨も風もかなり強くなってきている。自転車は倒れているものがほとんどで、
ビニール傘も骨になって転がっていく。

運転は町田がすると聞かないので田岡が助手席に座った。最近の警察車両はみな禁煙車が多く
田岡は煙草が吸いたくなって仕方がなかった。

「なあ、町田さんコンビニ寄らないか?」

町田はシートベルトをしめ、前方に集中し、まるで自動車教習ではじめて路上にでた生徒のようだ

「はい?何か?雨で視界が悪いので集中してました。どうしました?」

こちらに顔を向けることなど絶対にできないかのように、前だけを見ている。

「うーん、何でもないよ。運転変わろうか?」

ハンドルを握る手にちょっと力がはいる。「いえ。後輩の自分が運転します。」

町田は結構頑固なところがあるな・・・最初からこの調子で運転を変わろうとしない。

「そうか。じゃあ頼むよ。」

田岡も町田もそれ以上の会話はしなかった。もうすぐ、高橋みなの通っていた塾につくはずだ。

反対車線の車が飛ばす水しぶきでフロントガラスから一瞬外が見えなくなった。
話などできる状態にない。

「町田さん。ゆっくりでいいからな。」

「はい」

そのまま、塾の駐車場になんとかたどり着いた。

「傘さしても、無駄かな・・・。」

「そうですね。走ったほうがいいかもしれませんね。雨も今はそんなに降って無いようですし」

2人ともフロントガラス越しに外の様子を覗った。

その時、塾の入り口に男が立っていた、
町田と田岡の乗った車の様子を伺っているようだ。

「あれ?誰かこっちを見ていますね…」

「ああ」

田岡は何故か嫌悪感を感じた…
こんな時に、僕のかわいいウサギちゃんに会っちゃうなんて・・・。

衝動に押し流されそうになる自分を抑えようと男はウサギのハンカチをポケットの上から握った。
いつものように、あの子はバス停で何かを読んでいる。

それは、小説や授業で使っているノート、友達とスマホでライン・・・後ろに立ったことは何度もある。その度に服装も、髪形も眼鏡も変えた。同じ人間だと思われないように、気をつけてきた。

あの子に警戒されないために、がんばって計画どうりにしたいのに・・・。

その衝動は止めどなく、押し寄せる。


9月に入り日が落ちるのも毎日早くなって、まだ6時前なのに薄暗くなり始めてきた。
腕にあたる風も冷たくなってきた。

でも、まだみんな意識は夏のまま。だから日暮れの速さには慣れていない。
チャンスなのか・・・。でも、今はなんの道具も持ってない。

そうだ、ここで流されては僕の楽しみは無くなってしまう。

プーカッシャン
バスは僕のウサギを乗せて行ってしまった。

今日は家に帰ろう。男はバス停から反対側に歩き始めた。
家に帰って計画をまた考えよう、おとといの事件僕の9個めの作品。あれももっと反省しなくちゃな

キリキリ・・・奥歯を噛む。顎から頭蓋骨にひびく歯ぎしり・・・

また、ハンカチを鼻にあて匂いを嗅いだ。夜が近づく街に男は消えた。