田岡と町田の携帯が同時になった。お互い顔を見合わせ嫌な予感がする。

「はい、田岡。」

「はい、わかりました。」だんだんと二人の顔をは険しくなっていく。

「現場は?」

「はい、わかりました。」町田は蒼白になった。またか・・・。

「では、向かいます。」メモを手早く書いた田岡が先に携帯電話を切った。少し遅れて町田も切る。

「田岡さん・・・」

「うん・・・」二人ともそれ以上は話さず、会議室から台風が猛威をふるう外へ出た。

塾の方には後日また、来ることを伝えた。児島はほっとしている様子だった。

現場は、浦和市内ここからそう遠くない。電車なら一駅ほど。

今日の天気では少し時間が掛かりそうだ。

田岡が運転することにした。激しくなった雨の中前だけをみて運転した。

町田も、何も話さなかった。これから向かう現場の事を考えると、何も話せなかった。

外は暗く落ち込んで、雲が何重にも重なり昼間の様には感じられない。
まるで、これから見るものを知らせているかのようだ

現場近くになると、赤色灯を点けたPCが数台、鑑識のバンがすでに仕事についている。

「田岡さんこっちです。」

まだ、鑑識班の仕事は終わっていないので遠巻きに他の捜査員も待機していた。

ザーザーと音をさせながら雨が証拠を流してしまう。

足跡は無理だな・・・それに、遺留品の指紋、犯人の体液。
殆どの証拠がこの嵐の為に無くなってしまう

田岡やこの事件に関わる捜査員みんなが雨や風を恨めしく思っていた。

「そうですか・・・。他に何か気になる事などはありませんか?」町田が聞く。

「そうですね・・・。これっと言って反抗的でも無かったことですし・・・ああでもよくスマホはいじってましたね。今どきの子供はみんな持ってますがね。お迎え用とかで親が持たせる事が多いようですがね。」

児島はネクタイに細長い指を絡ませながら、高橋みなについて話していたがどうにも落ち着かない様子だった。

「児島さん、高橋みなさんが居なくなった日どちらに居ましたか?」

田岡の質問に顔色を曇らせ、足を組み替えた。

「わたしは、その日他に経営している塾にいました。気になるならそこの従業員に聞いてください」

「そうですね、連絡先教えてもらえますか?」

返事の速さに少しイラッとした様子で

「名刺の裏に他の塾の電話番号は書いてあります。そちらに確認してください。」

田岡は名刺をもう一度見た。じっくりと時間をかけ、また児島の顔をみる。

「わかりました。ご協力ありがとうございます。」

拍子ぬけした児島は「ああ、はい」

とだけ言って部屋を後にした。

田岡は名刺を受けとった時にすでに児島が複数の塾を経営していることは知っていた。
あらかじめ大体の情報は頭に入れてきた。

本部では、児島の塾の経営状態も把握していた。

「田岡さん、今の児島社長は落ち着かない様子でしたね。」

「ああ。何か知ってることがあるのかもな・・・」


「「入り口のドアをを開けると、むうっとする空気が二人にのしかかってきた

靴箱は真新しい鍵付のロッカーだった。一昔前の靴を放り込んでしまうような蓋も鍵もついていない物ではなく、きれいで清潔なロッカーだ。

床も、扉間も毎日決まった時間に清掃業者が掃除に来るのであろう、どこもきれいだ。

さっきまでの、湿度も自動ドアを通り過ぎる頃には忘れてしまうほど塾の中は快適だった。

こんな環境で勉強できるのが今の受験生には当たり前の事なのだと、田岡は思った。

なるほど、塾代の為にパートに出る意味も分かる。完璧な空間と有名講師そして希望校への合格率の高さを歌う壁に貼られた、ポスター。

率直に塾代は幾らなのだろうか?田岡はひとしきりここの様子を見まわした。

「こんにちは、浦和西署の方ですか?私はこの塾のオーナーの児島と申します。この度はうちの生徒の高橋みなさんはお気の毒な事です。私どもでお役に立てることがあれば何でも聞いてください。」

児島の第一印象は、身綺麗な、インテリ・・・そんなところか。

「お忙しいところお時間いただきまして、有難うございます。」

町田が型道理の挨拶をする。バッジを見せての挨拶が終わり、会議室に通された。

会議室は何かのアロマオイルの香りで満たされ、児島の趣味なのか絵画が壁には飾られていた。

会議室というよりは応接室の方が合っている
窓辺には大きな花瓶に生けられた花、テーブルは落ち着いたヨーロッパからの輸入品勿論
椅子も同じように高級家具だ。

田岡と町田は勧められた椅子に腰をかけた。

直ぐに、紅茶が出されたアールグレーの濃い香りがする。

「児島さん、高橋みなさんについて何かご記憶はありませんか?」

「ええ、あります。とても、明るく活発な印象の女の子でした。成績はまあまあな方でしたよ。」