「そうすると、その時にお母さんはなにかに気づいたと思うってことかな?」

「はい。そうだと思います。」

「何に気づいたんだろ?」

はあ・・・。

達弥がため息をついた。

「僕、母さんの罪を分かち合いたい・・・。もし、あの時僕が気づかなければ・・・。」

「・・・・?」

「僕、見てしまったんです。あの日は、暑かったんです。面談に使った部屋は珍しく、

クーラーがあまりかかってなくて、加藤先生が汗をハンカチで拭ったんです。

だから、気づいた・・・潤が母さんに刺繍してもらったウサギのハンカチ・・・。

母さんに話してしまったんです」


また、ため息をつく。

「だから、僕がいけないんです。ハンカチのこと・・・。話さなければ、母さんはあんな事しなかったんだ・・・。」

「加藤なんかに関わらなければ、母さんは・・・母さんは・・・。」

達弥の頬に涙が伝う。


田岡の達弥への嫌悪感は、もはやMAXになっていく。

膝の上の拳は固くなって血の気がなくなった。


達弥・・・この少年は、すべての罪を母美佐と加藤に着せる気か?


田岡の感では普通戦利品として被害者から取り上げたものは、家の中の一番大切なものを

保管する場所にしまわれている。

ましてや、被害者家族との面談時に持っている可能性はかなり低い。

見せたいのであれば、自分は犯人だと分からない形で様子を伺うのであって

被害者家族の目の前で見せることはリスクが大きすぎる。

自分が犯人であると示してしまう。それは、犯人にとっては自殺行為に等しい。

被害者の家族という自分にとっては最悪の相手に、自分が犯人で、自分に復讐するなり

警察に通報してくださいと言っているのも同じだからだ。


「達弥君、お母さんはそのハンカチをみたのかな?」

「・・・はい。たぶん」

「本当に?」

「・・・はい、でも、僕の思い込みかもしれません。母さんも見たって言っていたから。」

またも、涙をぬぐい決められたストーリーのセリフを口にしているように田岡には思えて

ならない。


達弥は狡猾で頭がいい。

この中のでのやり取りはすでに予想していたのだろうから、自宅や塾、学校など自分がたちまわり

そうな所に証拠は残してないだろ。

母美佐にも、同じ事が言えるだろう

最初に、加藤の目を潰し、その後に口も縫い付けている。

犯人の顔も見れなかっただろうし、助けを求める声も出せない。

あんなにも、住宅が密集している家で拷問が行われれば被害者が叫ぶことも簡単に予想がつく

だからこそ、美佐に目と口をなくすように達弥が指示したのかもしれない。

幾ら、復讐に燃える母親でも自分よりかなり大きな加藤を地下室に連れ込むには

体格、腕力ともに難しい。

犯行を実行するには、共犯者が必要になってくる、父親は加藤が仕事にでなくなる約10日

前から、仕事でインドネシアに半年の長期出張に出ている。

家には、美佐と達弥が二人だけ。

このタイミングも外せなかったはずだ。





「加藤先生とは塾で知り合いになっているね。講師と生徒として。」

「はい」

「なぜ、お母さんは潤さんを殺害したのが加藤先生だと気づいたのだろうか?」

「わかりません・・・」

「そうか・・・。」

田岡は、あえて間をおいて調書用のノートをパタンと閉じた。

もう、話は終わりだと印象付けるために。

「そう、ありがとう。この後、お父さんの話も聞いてから帰ってもらおうかな。」

「・・・・田岡さん・・・?」

町田はまだ聞いてもいいんじゃないかと田岡にそんなニュアンスの言葉をかけた。

田岡は、小さく首を横に振る。

その様子を達弥はみて

「・・・あの・・・もしかしたら、なんですけど、面談があったんです。9月に・・・」

「面談?塾での?」

「はい、進路や、今の学力を親と先生と3人で。」

「三者面談かな?」

「はい、そのあとからドンドン母さんはおかしくなったような気がします。」
田岡は町田の考えていることがわかった気がした

「達弥に話を聞こう・・・」

町田はうなずいて、田岡の後ろについて隣の部屋にむかった。


「お待たせしたね。」


達弥は先ほどの様子とは違ってにこやかに

「いえ・・・。平気です。」

「すまないね。いろいろとあって、そうだ彼女覚えてるかな?夏に佐々木君の家にお邪魔した時

一緒だった、町田さん」


町田に視線をむけ、いちように上から下まで見終わると、ニコっと微笑んで

「はい、もちろん覚えてます。」

その笑顔と軽やかな声の響きに町田は、背筋が冷たくなった。

この子、いったい何者?

普通に見えても、普通ではない。


「お母さんの事について聞きたいんだけど、いいかな?」


達弥は目を潤ませ、うなずきながら話し出した。

「母は2年前に妹の潤が死んでから…、いや、居なくなってからおかしくなってしまいました。

母は潤をとても、可愛がっていました。潤の言う事はほぼすべて叶えていました。

潤が生まれる前からです。そう、まだ生まれる前から、潤の欲しがる物すべて揃えていました

父は母の言う事をいつも、嬉しそうに聞き入れていました。

僕は、母の妊娠と共に佐々木家ではいない存在のようでした。

でも、僕も潤が生まれることを喜んでいたんです。

今、思うと本当に楽しみにしていました。

あんな事さえなければ、僕たちはいい家族でした。」


田岡は、話を聞きながら違和感を覚えた。

何度も何度も、練習したセリフのようだと、まだ14歳の少年。

もし、自分が考えている事が現実ならば・・・。


「そうだね、達弥君も喜んでいたんだよね。でも、お母さんが今回の件を起こしてしまった

そうだね、達弥君は気づかなかったのかな?地下室とはいえ、家の中で起きた事だからね」

「はい。気づきませんでした。」

素早い回答だ。

「なぜ?音や匂いとか感じなかった?」

「はい。気づきませんでした。」

「・・・そう・・・」


「では、もう一つ聞くけどいいかな?」

「はい」