また、会話には参加しなかった。他の人たちも暖かく町田を迎えた。




そんな、和やかな時間はすぐにおわりを告げる。

田岡が安岡管理官に呼ばれ、すぐさま2係1班に緊張感が戻ってきた

町田もその波に遅れないように緊張感を取り戻す。

「帳場立ちそうだぞ。現場は世田谷警察官内だ」

「はい」

「みんな向かってくれ」

「はい」

私の初仕事が始まった。細かい住所を受け取り、各自車に乗り込んだ

眩しい春の日差しの中車は走りだした。街路樹の木々は芽吹きはじめ桜が大きなつぼみをつけ

今にも咲きほころびそうな様子を見ながら、町田は緊張を隠せなかった。


現場には見慣れた鑑識のバンと所轄の捜査官がついていた


「おはようございます。世田谷署の田中です。中はもう見れます。どうぞ」

世田谷署の田中は細く、背の高い真面目そうな人だと町田は思った

全員で靴カバーと、手袋をして現場に入る

その部屋はオートロックでマンション一階にはコンシェルジュが常勤しているような高級な

マンションだった。

コンシェルジュと名乗る管理人に所轄の刑事が話を聞いていた。

部屋は4階の1号室角部屋で他の部屋よりベランダが一回り広い作りになっているようだ

その分家賃も高いはずだが、居住していたのは大学生だという

(すごい、お金持ちなのね・・・)

町田はふと今月越した自分のアパートと比べてしまった。

都内はやはり家賃は埼玉よりずっと高いし、部屋もずっと狭い、だが帰りが遅くなる事は

予想できたのでなるべく近くに住みたかった。

(まあ、こんな事今考えちゃ、だめよね)


「すっごい、トコですね・・・芸能人とか住んでそうですね」

仲元が小声で話す。みんな同じことを考えてはいるのだろうが、返事は誰もしなかった

独り言のようになった仲元の話は空を飛んで行ってしまった。

エレベータに乗り、部屋の前に着くと部屋からはものすごい異臭がしてきた、

部屋の中には鑑識の捜査員が道具を片していたが、誰も話さず・・・?

多分、息を最小限吸うようにしているのか、とにかく早くこの現場から出たい

そんな印象を受ける。

「お疲れ様です。警視庁の2係1班の田岡です」

「お疲れ様です、鑑識の安岡です、入っても大丈夫です」

「ありがとうございます。失礼します」

田岡に続き中に入った。

ムッとする異臭の中、遺体はあった。

ほとんど溶けて絨毯の上に広がってしまっていたが、衣服からはたぶん女性だろうと

思われた。部屋の内装やインテリアも女性だと示している

「田岡さん、ちょっと今回の被害者は気を付けてください。あまり、近づかないでください。

まだ、はっきりとは断言できませんが、何かの感染症で死亡しているかと・・・」

鑑識の安岡の言葉に一同が固まった。









頭を下げ、自分の席に座った。

見まわす2係1班の中には年上の先輩や同じ年くらいの人もいる。

(なんだか、転校生になったような気分だわ・・・)

急には馴染めない空気を察したのか田岡が声をかけてくれた。


「町田さん、ちょっといいかな?」

「はい」

(落ち着かなかったので丁度良かった)

「3年ぶりだね、元気だった?うーんちょっとガッチリした?・・・あ!女性に失礼だったね

ごめんね。はははは」

「いえ、大丈夫です!確かに武道を始めました。合気道ですが、有段になりました。」

ニコッと笑顔で返す。田岡が自分の事を忘れずにこの1課に引っ張ってくれたのだろうと

思うとすごく嬉しかった。

「田岡さんは、お元気でしたよね?」

「ああ、もちろんちょっと歳を取ったってぐらいたよ」

「町田さんと係長は知り合いなんですか?」

仲元が話に加わった。

「ああ、3年前の事件で町田さんには所轄でお世話になったんだよ。」

「お世話だなんて、私の方こそ勉強させてもらいました。」

仲元が鉛筆を唇にトントンとぶつけながら、町田の顔を見つめ

「3年前ってもしかして浦和西署にいた?」

「え・・・?はい浦和西署にいました。」

「僕の事覚えてないかな・・・?」

(え???なんのこと?)

町田も、仲元を見つめて考えた。

(鉛筆の癖・・・!!!)

「もしかして、警察学校同期の仲元幸也・・・くん?」

「そうだよ!思い出した?僕は見てすぐに分かったけどね~」

「そうか、二人は同じ年だもんな・・・同期か~」

「係長は知ってたんですよね。僕と町田さんが同期という事。」

「・・・ん、わからんな」

「絶対、知ってましたよ~僕らの記憶力を試したんですよね?」

ザラザラと無精ひげを触る田岡を矢田部がみて

「仲元くん・・・。」

といさめた。そのやり取りをみて町田は、なんだか可笑しくなった。

くすくす笑いがこみ上げてきた。初めて1課に来て緊張して、転校生のように居所が無かったのが

嘘のように暖かい気持ちになった。

「町田さん、がんばろうね。」

田岡が小さめの声で言ってくた。

「はい」

町田は、とても素直な気持ちで返事をしていた。


霞が関の巨大な警視庁ビルを見上げた。

皇居や日比谷公園の緑に囲まれてはいるが、無機質な固い建築物・・・。

(今日からお願いします)

少しだけ頭を下げた。4月の始めの肌寒い朝、私は気持ち緊張しながら

警視庁一課に向かった


エレベーターに乗り一課の扉を開けると見覚えのある無精ひげの田岡さんがいた。

「おはようございます。本日付けでこちらに配属になります。町田です。よろしくお願いします」

「おはよう!町田さん待ってたよ」

ニコニコ笑う田岡の笑顔にほっとした。

他の捜査員もみんな笑顔で迎えてくれた。

(頑張れそうな気がしてきた)

「今はな、事件を担当してないからみんな穏やかなんだよ」

田岡が席に案内しながら、町田に話しかけた。

「まあ、いつもこうだといいんだけどね。」


隣の席には私より2.3年上の女性刑事がいた。

「おはようございます。矢田部です。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

ニコッとされた・・・同じ女性の刑事だがとてもきれいに微笑むその先輩にドキッとしてしまった。

「一人ずつ紹介していくと時間がかかるから、俺が紹介するぞ」

田岡が班のメンバーを紹介してくれた。

「工藤、福田、神谷、仲元、本田、そして、矢田部、これ2係1班の全員だ。」

「改めてまして、町田瑞名です。よろしくお願いします」