2007年8月30日発行/河出書房新社

「寺田本家」23代目寺田啓佐著 発酵道

この本は武田鉄矢さんのラジオ番組「今朝の三枚おろし」で紹介されて夢中になって読みました。合気の仲間と一緒に見学にも行きました。直接、当主ともお話もしました。帰りは軽トラで送って頂いたのが良い思い出です。まさか東日本大震災のあと、割りと直ぐに亡くなってしまうとは思いませんでした。この本がきっかけで、発酵に興味を持ち、醸して作る松葉酒を作り始めたのでした。改めて読み直してみたら、常岡一郎さんや東城百合子さんなどが登場していて繋がっているなと感じました。カタカムナ文献の楢崎皐月さんも登場します。昔ながらのひ日本酒造りにかなり貢献しています。

国は税収をあげるためなら、国民の健康のことなど考えてくれないし、保健所も結局、自分たちの保身というか問題が起こらないようにすることが一番なんだと改めて思いました。コロナ、ワクチン、紅麹と自分の身は自分で守るしかないというか、何かのせいにしては生きられないのだと思いました。

P22

原価を安く、しかも大量に酒を造る方法があった。それが、「アルコール添加」(アル添)と「三倍増醸清酒」(三増酒)というものである。

事情が変わったのは、戦時中のこと米不足のために、思うように酒が造れなくなったので、量を増やす目的で添加されたのが「アルコール」である。これが「アル添」と呼ばれる方法だ。

P23

戦争中の米不足から、非常手段で始められたこのアル添酒が、戦後になってさらに進化(?)した。アルコールと水で増やした酒は薄辛くなってしまうので、味の調整が必要になってきたのである。そこで、ブドウ糖や水飴などの醸造用糖類、それにコハク酸(味をやわらげるのが特徴の、果実酸の一種)などの食品添加物や、グルタミン酸ソーダ(うま味調味料)なども加え、甘みや酸味、うま味を整えるようになったのだ。

こういう添加物を使うと、なんと元の三倍量の酒ができる。だから「三増酒」という。コストは安いし、量産も苦労しない。一度やり方を知ってしまったら、もうやめられない。

P24

この酒がテーブルにこぼれると、べとべとするのである。添加物の甘味料のせいだ。べとべとするだけではない。これを飲み過ぎると、翌日になって気持ちが悪くなる。日本酒は二日酔いしやすいといわれたのは、事実ではなく、添加物による悪酔いだったのである。

「アル添」は国が日本酒と認めている。「三増酒」も日本酒として放置している。なぜか。酒税を確保できるからなのだ。明治以来、酒造業界は、酒税によって大きく国に貢献してきた。大手メーカーがお酒を売れば売るほど、酒税が国に入り国庫を豊かにする。したがって国も、酒造業界の繁栄に協力していた。

「級別審査」などという、おかしなものがこの業界にはあったのも国家による販売促進政策だった。国税局の酒類審議会が、日本酒を品質が優良な「特級」、佳良な「一級」、その二つに該当しない「二級」と分類していたのである。税収増加をもくろんで作られた巧妙な仕組みだった。

P25

できた時点で酒は、すべて二級酒ということにする。それを「一級でよろしいてすか」「特級よろしいてすか」とお伺いを立てると、役人が味見をして、「まあいいでしょう」ということで、一級になったり特級になったりする。なんの根拠もない、すべてベロの感覚で決めてしまうのだからすごい。いわゆるベロメーターだ。

(中略)

授かり物この制度の矛盾を指摘する声が大きくなって、平成元年になってようやく級別審査はなくなった。それは英国のサッチャー首相の鋭い指摘にあい、結局GATT

(関税および貿易に関する一般協定)の裁定という、外圧によって廃止されたのである。業界内部からの自主的な動きでないあたり、いかにもといった感がある。

P57

両方とも、10年前に作られた米だというが、タール状になった米は、農薬と化学肥料を使用して栽培されたもので、米がそのまま残っていた方は無農薬無化学肥料で栽培された米だった。

「農薬や化学肥料で育てると、こういう風になっちゃうんですよ」と、その農家の人は言いたげだった。

P60

新たな酒造りを始めるにあたり、会っておきたい人がいた。亡くなった父の人生の師、常岡一郎氏である。

P61

そんなわけで、「さあどうする、人生の分かれ道」というときに、頭に浮かんだのが常岡氏だったのだ。そして10年振りの再会……。

そこで氏に言われたのが、「あなたのお酒は、お役に立ちますか」という言葉だった。

P94

繰り返しになるが、日本中のほとんどの酒蔵で行われている「速醸造り」では、酒母造りの初期化段階的で、石油から作られた合成乳酸を投入する。こうすると乳酸の働きで雑菌はみな死滅し、安定した酒造りができるというのが使用される理由だ。蔵ごと酒を腐らせるのが怖いからなのだ。

でもそうなると、微生物の棲み家としては快いとはいえなくなる。だからその後もコハク酸を入れたり、協会酵母を入れたりして、人工的に発酵を進めるようなことをしなければならなくなったのだ。

こういった蔵は、塩素を使った殺菌消毒にも血道をあげている。一年に一度やってくる保健所の徹底指導のたまものかもしれないが、保健所の安全基準に適合するということは、蔵に住みつく微生物を殺していくことになってしまう。酒蔵というのは、本来菌をいかに育てていくかが大切なところだったというのに、今の保健所の指導はまったく逆をいっている。

あるとき、その指導どおりに殺菌消毒した蔵で、うちのような自然酒造りを試みたことがあった。けれど蔵に微生物が住んでいないわけだから、当然発酵はしなかった。酒になっていなかったのだ。そこで、うちに「硝酸を貸してくれ」と言ってきた。その蔵には、殺菌消毒によって、硝酸を作る硝酸還元菌がなくなっていたのだ。

でも、うちの蔵には硝酸も乳酸もない。酒造りにケミカルなものはなにも使っていないのだから、求められてもあげられる消毒などもともとないのだ。

殺菌消毒を丁寧にした蔵は菌のバランスが崩れてしまっている。それらとりもなおさず、発酵のための「場」が成り立たなくなったということだ。そんなことに精を出さなくても、昔ながらのやり方で、普通にきれいにしていればいいのに。

P97

実をいうと、発酵のための環境を整えるのには、もっと大きな影響を及ぼすものがある。それは人間の「言葉」や「意識」である。本当のところ、私はこれがいちばん大事だと思っている。不思議なことだが、プラスの言葉を使ったりプラスの意識をもつのと、マイナスの言葉を使ったり、マイナスの意識をもつのでは、場というか環境はいかようにでも変わっていく。

P105

妻は片山氏に紹介してもらった東城百合子さんの料理教室に通って最終コースまで学び、何年か後には、次女が大谷さんの経営する「アトリエ風」という雑穀主体の自然食レストランに勤めるようになった。

東城百合子さんは、自然食を主とした健康運動に力をそそいできた人で、「家庭で出来る自然療法」(あなたと健康社刊)の著者として有名だった。

P107

それに、あまり知られていないけれど、砂糖も腐敗菌を増殖させる働きがあるという。

P112

昔ながらの無添加の酒造りをしてみて気づいたことは、多種多様な微生物たちが次から次やへとバトンタッチをしながら、思う存分働いてくれているということだった。

酒母造りの段階で硝酸還元菌が出てきて亜硫酸を造り、次に来る乳酸菌が働きやすい場を作ってくれる。そして乳酸菌が出てきたら、ひとりでに乳酸を作っていくのだが、一般的に行われている速醸造りでは、ここで人工の乳酸を入れる。本当は発酵のために場が整っていれば、乳酸は自然にできて、この乳酸の登場で雑菌や亜硫酸還元菌、乳酸菌は死滅してしまうのだが。

そのあとに出てくるのが酵母菌で、これがアルコールを造りだして、お酒にしていく。これも、安定した発酵力をもつ協会酵母というものを投入するのが今では当たり前となっているが、それぞれの蔵に棲みつく酵母の働きで造る酒こそ、本当に個性豊かな酒を造る鍵だと私は思う。

P135

今の自分にとって必要な場所ではないかと直感し、早速京都にある「一燈園」を訪ねてみた。そこで出会ったのが、石川洋さんだった。

洋さんは、人の下に自分を置く「下坐の祈り」として、見知らぬ家を一軒一軒訪問し、便所掃除の行をしていた。私も洋さんについて行き、便所掃除をさせてもらったが、それは単なる掃除ではなく自分を変える大きなきっかけとなった。

素手で便器を磨くのだが、この掃除によって自分が現れ、きれいも汚いもない世界を知った。下坐になりきり、ただただ掃除をさせていただけたありがたさに感動し、「ああ、これだ」と確信した。

洋さんは、自分で自分を叱る言葉「自戒」として次のような言葉を伝えている。

P136

「つらいことが多いのは 感謝をしらないかりだ

苦しいことが多いのは 自分に甘えがあるからだ

心配することが多いのは 今をけんめいに生きていないからだ

行きづまりが多いのは 自分が裸になれないからだ」

そして、「感謝にまさる能力なし」という言葉を私に教えてくれた。当たり前のことを、どう感謝につなげていくか。いいことも悪いことも、何があっても感謝につなげていくという生き方があるのだということを。

P178

藤田紘一郎教授は、熱帯医学の研究で、インドネシアのカリマンタン島を訪れているのだが、現地の子どもたちは、便が流れているような川で元気に水遊びをしているそうだ。川の中で排便しているからなのだが、なんとその水が飲食にも使われている。「これでは病気になってもしかたがない」と思いきや、大人も子どもも肌がツルツルしていて、アトピーなどひとりもいない。ぜんそくだって、花粉症だってまったくない。アレルギー疾患がないだけでなく、血圧もコレステロールも正常値だ。

P179

お尻の付近には、便や尿がたまっているわけで、「寄生虫のうんこやおしっこが、我々人間の免疫力を高めていくんです。論文を出しても認められませんから、公にはしていませんけどね」と教授は言っていた。

P180

ひとつの原因としてあげられるのは、水道の塩素消毒だろう。それがいかにに有用な微生物まで殺してしまうかというとことだ。塩素消毒は、水のなかの菌を殺すだけではなく、それを飲んだ人間のおなかの中の菌も殺してしまうのだ。浄水器で塩素を除去すれば免れるが、知らなければとんでもない目に合うことになる。