オランダの名医へーベルハーフエが死に際して、医術の極意を書いておいたと云って大きな遺言録を残した。そしてそれはそのまま厳重に封印され、遺族の手で大切に保管されていた。医術の極意なら無病長生法の極意でもあるわけだから、人々は何とかしてこれを見たいものと遺族に向かって百方懇願してみたが、遺族らは容易に開封承知せず、後生大事に仕舞い込んでいた。ところがイギリスの或る大富豪が莫大な金を出してこれを手に入れ、さて封を切ってみたところ、ほとんど白紙ばかりでたった1ヶ所何やら簡単な文章の書かれた頁あっただけだった。それを読んで見ると「頭を冷たく、足温かく、腹を満たし過ぎないこと」という文句である。これが医術の極意、無病長生の秘伝に他ならなかったのである。
これは我が国の「頭寒足熱、腹八分」のオランダ語版に過ぎなかったのである。