続・付き人奮闘記 111 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

誠也の目を見ていたら、こんな表情もするんだなと思っていた。

もう自分の中で辞める覚悟が出来ているのだろう。

諦めと言うよりは気持ちを切り替えようとしているように見える。

そんな時にこんな話をしても良いのだろうか?

 

 

「次の仕事は決まってるの?」

 

「いえ、これからです。もう30ですから何が出来るかわかりませんし……」

 

「だったらもう一度だけチャレンジしてみない?」

 

「え?」

 

「これから話すことをよく聞いて判断して欲しい。俺も今話すことなのか迷っている。

 でも辞められたら終わりだし、とにかく話だけでも聞いて欲しい」

 

「はい」

 

誠也が頷いてくれた。

 

「実は隼人達3人の新曲のコーラスでどうしてもハイトーンのパートが必要なんだ。

 隼人も高音だけどそこまでは出せない。それで誠也の名前が出てきた。

 それから前の事務所の知人に連絡して現在の状況も聞いた。

 はっきり言うね。もしデビューしていたり、その目途が付いていたのなら諦めていた。

 凄く都合の良い話なのはわかっている。それを承知で頼みに来た」

 

「……」

 

「だけど誰でも良かった訳ではない。翼の時に凄く助かったから誠也なら安心して任せられると

 思ったんだ。だけど年齢的にもコーラスだけという無責任な事は出来ない。

 正式にうちの事務所で受け入れる用意は出来ている」

 

「でも……」

 

「わかっている。凄く都合の良い話だし、誠也を傷つけているのかもしれない。

 だけど潤の話だとうちのプロジェクトの候補に入っていたらしい。

 潤もまだまだやれると思っていたのだと思う。俺もそう思っている」

 

 

話ながらなんだかわからないけど涙が出てきた。

 

「勿体ないよ……。もう少しだけやってみない?……もう一度だけ人を信じてみない?」

 

「大野さん……」

 

「誠也のマネージメントは俺が責任を持つ。3人のコーラスが終わったら、

 俺が誠也の専属になるから」

 

「良いんですか?」

 

「新人は俺が責任を持つことになっているから。

 歌手をやるのも良いし舞台をやるのも良いと思う。その声は絶対に武器になる。

 もっともっと活かそうよ」

 

下を向きながら聞いていた誠也が顔を上げてくれた。

 

「もしもっと詳しく聞きたいなら潤と話すことも出来る。幹部5人集めても良い。

 考えるだけ考えてくれないかな」

 

「本当に俺で良いんですか?」

 

「誠也だから頼みに来た。同情でもなんでもないよ。その声に俺は惚れているからね。

 その声を借りに来た」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

少し考える時間が必要だと思っていたから即答したことに驚いた。

 

 

「即答して良いの?」

 

「今は俺は無職です。早く仕事が欲しいのが本音です。

 それにレコーディングも早い方が良いですよね」

 

「ありがとう。助かるよ。必ずその後の責任も持つからね」

 

 

どこまで信じてくれたかはわからないけど、最初に会った時よりはホッとした表情になっている。後はこっちが誠意を見せるだけ。コーラスの後の仕事が大事になってくる。

あの声は活かしたいから、バラエティー系よりは歌手や舞台関係だな。

 

 

それから数日後、誠也のコーラス部分のレコーディングが行われた。

思った通り、嫌、それ以上の出来にスタッフ陣も大満足。

レコーディングには3人も来ていて声を聞いて大興奮していた。

特に同じ高音の隼人は可なり刺激になったようで、合間には色々と話しをしていた。

 

その様子を見て少しホッとした。

実はコーラスに誠也が加わる事で隼人が機嫌を悪くするのではないかという心配もあった。

でも隼人が純粋に誠也の声に関心を示していたのが嬉しかった。

 

休憩中は3人とも可なり話していて終わる頃にはすっかり仲良くなっていた。

誠也は樹の1歳下で同期だ。でも研修生も人数が多いから幾つかの集団に別れるから、

同じ集団にいなければ余り接点はない。

3人と誠也はそう言う関係だ。全く知らない仲ではないけど、ガッツリ組んだ事はない。

それでも同年代と言うのは大きい。

 

そのお陰もあって誠也のコーラス部分も当初より少し増えた。

 

 

そして正式にCDになって発売されると、このコーラスの高音が話題になった。

コーラスだから普通はそんなに目立ってはいけないし、これも目立っている訳ではない。

だけど突き抜けるような高音がこの曲の特徴でもある。それが話題になった。

 

レコード会社もそれに気をよくしたのか、次の曲も、そしてその後に予定していたアルバムも

コーラスを誠也に頼んだ。初のミニライブにも参加してくれた。

俺は反対だったけど誠也がやる気になって、ほぼ1年間コーラスを担当してくれた。

 

 

でも、これでは翼の時と同じになる。こんな事をさせるために連れて来た訳ではない。

裏方はもう終わりにさせてあげたい。歌をやるのなら歌手としてデビューさせたい。

1年が経った頃にコーラスでの参加は終わらせた。

 

 

「コーラスでなければ良いんじゃないの?」

 

隼人が軽く言うけど意味がわからない。

 

「どういうこと?」

 

「一緒に歌えば良いじゃんってことだよ」

 

「簡単に言うなよ。お前達は3人グループだよ」

 

「人数が増えたらいけないの?4人じゃダメなの?」

 

「なるほどな。そう言う考えもありか……」

 

レコーディングスタッフの大橋さんまで乗り気になっているけど、

簡単に決めないで欲しい。

 

 

「待ってください。誠也は誠也でちゃんと進む道を決めたいと思っています。

 こんな軽いノリで決めてあげたくはない」

 

 

「だったらその選択肢にこれも入れてくれませんか?」

 

慎重派の風磨にしては珍しい発言に少し驚いていた。