パズル 21 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

雅紀を椅子に座らせたら向こうで怒声が聞こえた。

 

「ちょっと私は大野さんを指名したのよ。どうしてあなたなのよ」

 

「すみません。大野には急な指名が入りまして」

 

「でも予約したのは私の方が先の筈よ」

 

 

確かにその通りだ。兄弟だからと言って我儘は効かない。

 

「雅紀、悪いけど今度予約して来て」

 

「わかった。ゴメン」

 

 

するとそこへ店長が来た。

 

「弟さん?」

 

「店長すみません。すぐに代わります」

 

「じゃあ弟さんは私がやっても良いかしら」

 

「え?でも……」

 

「さあ、ここは任せて。お待ちかねよ、早く行きなさい」

 

「すみません。よろしくお願いします」

 

 

店長に礼を言って予約のお客様の所へ戻って謝る。

 

「申し訳ありませんでした」

 

「あの子、高校生くらいよね。学校休んで来ているのかしら」

 

俺の弟だとは知らずに話し出す。

このお客様は常連さん。調度、雅紀くらいの年頃の子供がいる。

いつもここへ来ると俺を指名してくれて、ひたすら子供や旦那の愚痴を言って帰る。

 

最初はうんざりしたけど、みんなそれぞれに抱えている物があるのだろうなと思うと

他人事ではない。

 

 

 

俺の位置から鏡越しに雅紀が見える。

 

あの感じだとカラーかなと思ったら、店長が更にパーマの用意もしている。

 

え、パーマ?冒険のし過ぎじゃないのか。

 

まあ、雅紀のことは店長に任せたのだから、俺は自分のお客様に専念しよう。

 

このお客様はだいたい髪型はいつも変わらない。

ショートカットにカラー。

「いつもと同じで」と言うのが定番だ

それにプラスして今日は手のネイルが入っている。

 

話をしながら髪を切ってカラーをして、最後にネイルになる。

ネイルもこの席でやる。色を選んで丁寧に塗って行く。

 

全て塗り終わってホッと一息ついて顔を上げたら、鏡越しに雅紀と目が合った。

真剣な顔でこっちを見ている。

俺の仕事なんて見るのは初めてだろう。そうか、それが目的で来たのかもしれない。

自分の髪型より俺がどういう仕事をしているのか見たかったのかもしれない。

 

ゴメンな、雅紀。今度は雅紀をやってあげるからな。

 

最も今日の姿を見てどう思ったか。

美容師もお客様も男性もいるけどこの時間帯は女性が多い。

愛想笑いを浮かべながら接待する兄貴をどういう気持ちで見ていたのだろう。

 

以前、潤が来た時はまだ子供だったから、そこまで考えられなかっただろうけど、

雅紀も高校生の年齢になった。色々と考える事はあるだろう。

 

 

俺のお客様が終わって、ふと鏡を見たら雅紀がいない。

え?もう終わった?でもパーマとカラーならもっとかかる筈だ。

 

お客様を送り出して店長の元に駆け寄る。

 

「店長、今日はありがとうございました」

 

「いいえ。とても行儀の良いお客様だったわよ」

 

「あのう、今日は何を?」

 

「最初はカットとカラーとパーマと言う要望だったんだけどね。

 途中でパーマはまたにしますと言うので、カットとカラー。

 まあ、髪の為にもその方が良いからね」

 

「ご迷惑かけてすみません」

 

「ううん。多分、半月くらいしたらあなたを指名してくるわよ」

 

「そうですか?」

 

「あなたの働いている姿を一生懸命見ていたからね」

 

「嫌がってませんでした?」

 

「どうして?」

 

「一番下の弟以外は、俺の仕事を余り認めてくれなくて」

 

「まあ、男性にとってはそうかもしれないわね。

 でも、とても真剣に見ていたわよ。少なくとも軽蔑しているような目ではなかったわ。

 もっと自信持ちなさいよ、お兄ちゃん」

 

店長の言葉に少しホッとした。

 

もう少しだけ話がしたかったな。

 

 

仕事が終わってスマホを見たら雅紀からLINEが入っていた。

 

「兄ちゃん、今度は予約していくね。髪の色、どう?」

 

染めたばかりの髪の雅紀が写っていた。

少し明るめの茶色。

 

「よく似合ってるよ」

 

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