続・付き人奮闘記 103 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

昼過ぎには実家に着いた。

 

なかなか車から降りようとしない翼を支えるようにして車から降ろして家に入る。

 

「翼くん」

 

部屋の中にいた近所の人が声をかける。

 

「遅くなりました。翼のマネージャーをしてます大野です。よろしくお願いします」

 

「遠い所ご苦労様です。翼がいつもお世話になっています。

 どうぞ対面してあげてください」

 

田舎は近所付き合いが良いから、翼のこともみんな子供のように扱ってくれる。

 

おばさんが寝ている部屋に向かう。翼の身体が小刻みに震えているからしっかりと支える。

でも、おばさんが寝ている傍に座りこんだら呆然として動かなくなった。

泣き崩れるかと思ったけどそんな余裕もないのだろう。

 

 

「母さん…母さん…起きてよ」

 

翼が声をかける。

 

部屋にいた近所の人はみんな部屋を出て行って、翼と俺だけにしてくれた。

 

「母さん…母さん…」

 

翼がおばさんの身体をゆすり始めたから止める。

 

「翼、お母さんぐっすり眠っているから、このままにして置いてあげよう」

 

「智さん……」

 

「もう病気の苦しみからも解放されて安らかに眠れているんだと思うよ。

 翼の事も何の心配もなくなって、漸く和馬の所へ行かれたんじゃないかな」

 

「でも親孝行なんにも出来なかった」

 

「そんな事はないと思うよ。おばさんにとっては翼が元気に活動している事が

 親孝行だったんだと思う。仕事も順調だし、結婚して子供も出来て、

 子供を見せられなかった事だけは残念だけど、おばさんは後悔はしていないと思うよ」

 

 

そんな話をしている時に、近所の人が住職さんが来たことを教えてくれた。

 

「翼、おばさんをきちんと見送るための相談をして来よう」

 

そう言うと静かに頷いてくれた。

 

その後、住職さんと話しをして明日が通夜、明後日が告別式と決まった。

 

明日の朝、遺体を運ぶことになったので、今日一晩は一緒にいられる。

 

俺達が来てからは近所の人は極力遠慮をしてくれて、

 

「俺らは昨日十分お別れしたから、今晩は3人で過ごすと良いよ」と言ってくれた。

夕飯も近所の人が用意してくれた。

 

俺は葬儀の日程などを潤に知らせる。

明日は潤が来てくれるらしい。

 

「香典を預かっているし、それに俺も昔おばさんに会った事があるんだ」

 

和馬は中学生の時に上京して来ている。最初の頃はおばさんと二人で暮らしていた。

お父さんは実家で一人暮らしをしていたと聞いている。

地方から来ているタレントはそう言う人が多い。

東京に実家がある俺なんかは恵まれていたのだと思う。

 

「ところで双方の父親には知らせたの?」

 

和馬と翼の父親と言う事になる。

双方とも既に新しい家庭を持っていると聞いている。

 

 

「それは後で翼に聞いてみる」

 

多分知らせていないだろうと思うし、第一和馬のお父さんに関しては連絡先も知らないだろう。

翼の父親に関しても既に別の家庭を持っているし、それが原因で別れたと言う事もあるので

そこは翼の気持ちを大事にしたい。

 

近所の人が帰って二人だけになった時にその話をしてみた。

 

「出来れば和馬兄ちゃんのお父さんには知らせたいけど、俺は全く知らないんだ。

 俺の親父には一応メールは知っていたから連絡したけど返信は来なかった。

 もう俺の中では親父の存在なんてとっくに忘れていたし関係ない。

 それに母さんだって望んでいないと思う」

 

翼がそう言うならそれで良いだろう。

 

親戚もいないみたいだし、近所の人と翼と俺で見送ってあげよう。

 

 

通夜・告別式と翼は立派にやり通した。

泣き崩れる事もなく、しっかり喪主を務め上げた。

 

でも、俺にはそれは翼本人ではなく、翼が喪主を演じているように見えた。

素ではいられないから、役者になりきったのではないかと感じた。

 

もしそうなら終わってからの落差が大変だな。

 

潤も同じことを思っていたようで、

 

「仕事の方は気にしないでいいから、暫く翼に付いていた方が良いな。

 あれは心配だ」

 

「翼の仕事は?」

 

「来月からドラマの撮影に入るから、それまでのは何とか調整する」

 

「隼人達の方はこれ以上デビューは延ばせない。

 だから俺は当分翼の家から仕事に通おうと思っている」

 

「え?」

 

驚くのも当然だろう。マネージャーが一時的にしてもタレントと住むと言うのは聞いた事がない。大きな会社だったら無理だけど、ここは俺達5人で作った事務所。

いわゆる個人事務所と変わらない。だったら多少の自由は利くはずだ。

 

「ずっとじゃないよ。由夏ちゃんが戻って来るまでの間だし、その間は翼のマネージャーは

 やらない。今まで通り相葉くんに任せる。

 隼人達の方も大事な時期なんだ。人任せには出来ない」

 

「奥さんはいつ戻ってくる予定?」

 

「来月出産予定で、その後も少なくとも1ヵ月は実家にいた方が良いと思うんだ。

 だから後1ヵ月半から2か月くらいかな。

 由夏ちゃんも高齢出産になるからね。無理はさせたくないんだ」

 

「わかったよ。任せる」

 

 

我儘だとはわかっているけど、今は翼も隼人達も心配。

どっちかにかかりっきりになる事は出来ない。

 

翼は一緒にいるだけで少しは落ち着いてくれると思う。

 

少なくとも由夏ちゃんが帰って来るまでは、そうやって乗り切って行きたい。