智
本当は雅紀への訪問は中止にさせたかった。
それと言うのも翔も雅紀と連絡が取れないのを心配しておじさんに連絡したら、
どうやらそこにはいないような感じがしたらしい。
おじさんがはっきりと言った訳ではないらしいけど、そんな予感がしたという。
そうだとしたら、潤が行っても無駄になってしまう。
だけど潤はカズの訪問がうまく行った事で自信を持っている。
それに何よりも潤が凄く楽しそうで止める事が出来ない。
だから雅紀の訪問は可なり気を遣って付き添ってくれる人を考えた。
単なる付き添いだけではなくて、雅紀があの家にいないのなら居場所を聞き出して欲しい。
それが出来る人。なかなか難しい役割だけに誰でも良い訳ではない。
結果的にカメにしたのは斗真の従兄だからと言うのもあるけど、カメならおじさんを相手に
ひるむことなく堂々と話せると思ったからだ。
俺が一番信頼していると言うのも勿論ある。
信頼していなければ大事な弟を預けたりはしない。
当日はカメとの待ち合わせ場所まで電車で二人を送って行く。
少し緊張気味だけど電車に乗る事にはしゃいでいる二人を見ていると不安が押し寄せてくる。
二人を行かせて大丈夫なのかな。
特に潤は雅紀と会えると信じている。
「家にいない場合もある」と言っても、「だったら待っている」と言う。
だからあの家にいないかもしれないと話して、カメの役割も話す。
さすがに驚いて聞いているけど、会えないとは思いたくないのだろう。
カズにも会えたのだから雅紀にも会えると信じている。
俺もそれを信じたい。おじさんの家にはいなくても居場所がわかれば良い。
それでもこんな事を中学１年生にさせていいのかなと思って、
降りる時にふと弱音を吐いてしまった。
それなのに逆に励ましてくれる潤。
「大丈夫だよ。たとえ今日は会えなくても、カメ兄ちゃんが居場所を聞き出してくれるから。
そうしたら今度は会える。会いに行く」
潤の強さは何があっても諦めない事だ。
その潤の性格を十分に知っているから、この兄弟訪問も許している。
ただまだ子供だし、目的の為なら何をするか分からない所があるので、
それは十分に釘をさす。
カメの言う事さえ聞いてくれれば大丈夫だ。
待ち合わせの駅に着くとカメが既に来ていた。
潤と斗真が笑顔で駆け寄る。
「ゴメンな，面倒な事を頼んじゃって」
「ううん。俺も雅紀の事は気になるし、会えるなら会って来たいし…」。
その為ならちゃんと聞き出せるように頑張る」
「うん。一つだけアドバイス。
あそこのおじさん意外と顔に出やすいから、顔を注意してみていれば少しはわかるかも。
でも、くれぐれも無理はしないでよ。下手したら訴えられる可能性もあるんだから」
見ず知らずの人間が根掘り葉掘り聞いたら警戒する筈だ。
「それと話しの流れによっては潤を会わせて良いよ。
そうすれば怪しい奴ではないと言うのはわかるだろうし、目的もわかる筈だから」
「うん。でもそれはなるべくならしたくない。
勿論、身元は明かすけど潤が来ている事は最後まで言わないで通したい。
智くんの名前は出させて貰うかもしれないけど…」
「それは勿論だよ。俺の名前は出して良いよ。そうしないと話にならないだろう」
「大野の家の知り合いで通れば通したいと思っている」
「それは任せるけど無理はしないでよ。聞き出せそうにないと思ったら帰って来てね。
潤にもカメの言う事は絶対に聞くように言ってあるからね。
言う事を聞かなかったら怒っても良いから」
なんだか話しているとカメの事も心配になってくる。
こいつも意外と熱い奴だし義理堅いからなぁ。
もしかして、人選間違えたかな？
でも、やっぱりカメしかいない。
今はカメを信じよう。
2024年6月17日
二宮和也さん お誕生日おめでとうございます！
充実した素敵な1年を…。