続・付き人奮闘記 102 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

翌朝、慎吾からのLINEで目が覚めた。

 

「まだ翼の家にいる?」

 

「いるよ」

 

「じゃあ香典持って行く」

 

 

慎吾の家は隣のマンション。

慎吾と翼は飲み仲間だ。

 

「慎吾が香典持ってくるって」

 

同時に起きた翼に教える。

 

「なんだか申し訳ないね。母の為に…」

 

「慎吾もおばさんを知っている筈だよ」

 

「そうか。兄ちゃんと同期なんだ」

 

当時、慎吾は事務所は違ったけど、俺達3人は同期で仲も良かった。

 

 

間もなくして慎吾が来た。

 

「翼、葬式に行かれなくてゴメンな。

 おばさんの事は昔は勿論だけど、最近もこのマンションの前で何度か見かけていたんだ。

 向こうは多分気づいていないと思ったから挨拶はしなかった。

 和馬の友達で翼とは飲み友達だって伝えたかった」

 

「代わりに俺から伝えとくよ」

 

「頼む」

 

そう言って慎吾は帰って行った。

 

 

でも、おばさんは知っていたんじゃないかと言う気がする。

昔、何度か会っているし、葬式にも行っている。

それに慎吾がわざわざ挨拶しなかったのも、慎吾なりの思いやり、優しさだったように思う。

 

翼の周りに俺を筆頭に和馬の知人がたくさんいる事を、おばさんはどう思っていたのだろう。

慎吾はそれを気にしたのだと思う。だから自分は名乗らなかった。

俺にはそんな気がしてならない。

 

 

 

さて、出かける準備をして出発する。

 

一旦俺の家に寄って用意をしてから翼の実家へ向かう。

 

出る前におにぎりを作って来たので車の中で食べる。

翼は俺の助手席に座った。

 

「余り寝てないだろう。うしろで寝ていても良いよ」と言っても、

「大丈夫」と答える。

もっと話したいのだろうなと思うから、俺もそれ以上は言わない。

 

 

暫く黙っていたけど高速に入った頃からポツリポツリと話し始めた。

 

「俺が以前病気で仕事を休んでいた時に母さんが来てくれて随分助かったから、

 母さんが病気になった時は俺が手伝おうって決めていた。

 二人だけの親子だからそれが当然でしょう」

 

「……」

 

「だけど母さんが俺の仕事の事を気にして、私の事は良いから仕事を優先しなさいって

 うるさくて……。何度か言い争いもしちゃった。病気の親と喧嘩するなんて親不孝だよね」

 

「そんな事ないよ。それだけ心配してたんでしょう。お母さんもわかっていたと思うよ」

 

「母さん、俺の仕事の内容には口を出さないけど、仕事に向かう態度には厳しかった。

 最初の頃はわからなかったけど、和馬兄ちゃんの事が忘れられなかったんだろうね」

 

おばさんの心の中で和馬の事はどういう風に気持ちの整理を付けていたのだろう。

弟の翼まで同じ仕事を選び、複雑な気持ちだっただろう。

 

 

「結局、母さんの本音を聞けなかった」

 

「本音?」

 

「俺が芸能界にいる事をどう思っていたのかな。

 反対を押し切って入って、その時は反対の理由もはっきりとはわからなかったから、

 その後に兄ちゃんの事を知って、芸能界を辞めて欲しいとは言わなかったけど

 母さんにとっては敵みたいなものだった筈だから……」

 

和馬が疑いをかけられたまま事務所を解雇になり、ああいう形で亡くなったからだろう。

 

でも本当に憎んでいたのかな。

一時はそう言う気持ちになったかもしれないけど、翼が芸能界に入る事を反対はしながら

結果的には許しているし応援もしていた。

本当に憎んでいたら、敵だと思っていたら、翼に本当の事を話して辞めさせていたように思う。

 

翼は和馬の存在を週刊誌で知った。

兄がいた事は知っていたけど芸能界にいたとは知らされていなかった。

そして、その兄と自分のマネージャーが同期で親友だった事もその時に知った。

 

週刊誌に和馬の事が面白おかしく書かれ、当時の事を思い出して精神的に参っていた俺を

心配して、会見の場で俺を庇って記者に怒っていた翼の姿を俺は一生忘れない。

 

あの時に翼のことは一生支えていこうと決めた。

 

 

 

「智さん、昔正月にうちの実家で母さんと3人で兄ちゃんの話をしたの覚えてる?」

 

「勿論、覚えてるよ。おばさんとあんなに和馬の話をしたのは初めてだったから俺も嬉しかった」

 

「母さんも凄く喜んでたよ。俺の親父と再婚してから家では兄ちゃんの話はタブーだったから、

 親父は兄ちゃんの事を犯罪者だって思い込んでいたから出来なかったんだよ。

 だから母さんも楽しかったみたいで、あの話はずっとしてたよ」

 

 

「もっともっと3人で兄ちゃんの話をしたかったなぁ……」

 

段々と涙声になってそのうち静かになった。

ふと横を見たら涙を流しながら眠っていた。

 

 

 

俺も翼の話を聞きながら、和馬やおばさんの事を思い出して泣きそうになっていた。

 

昔、何度か和馬の家に遊びに行った時におばさんが来ている事があって、

恐縮して帰ろうとした俺を優しく家にあげてくれた。

 

「私の方がお邪魔だったら帰るから遠慮しないで。

 いつも和馬をありがとうね」と、言ってくれた。

 

和馬が亡くなった後に遺品整理に行った時が、和馬の母親として会った最後だった。

 

 

それから20年以上経って、翼の母親になっていたおばさんと再会するとは思わなかった。

 

そもそも翼のマネージャーをすることなんて考えもしなかったし、

でも翼を通して和馬をより近くに感じている今がとても幸せだ。

 

おばさんにちゃんと「ありがとう」とお礼を言って来よう。

 

 

そんな事を考えていたら翼の実家が見えてきた。

 

「翼、着いたよ」

 

「うん……」

 

辛いよね。俺が傍にいるから、一緒にお別れしてこようね。