智
潤は一度言い出したことは絶対にやめない。
それがわかっているから、兄弟訪問も認めた。
それに俺なんかが聞いても教えてくれないだろうし、潤は適任かも知れない。
勿論、翔には内緒。後で喧嘩になる事は目に見えているけど、ここは潤の気持ちを優先させたい。
でも、とりあえずは近くのカズだけ。それと誰か一緒に行ってもらえる人を探してもらう。
一人では心配と言う事もあるし、潤が行っても会わせて貰えないような気がしたからだ。
その結果、幼馴染の斗真を探してきた。斗真ならうちの事情も知っているし調度良い。
それに斗真なら雅紀を訪ねる時に好都合な事があるのだけど、それは今は内緒。
とりあえずはカズがうまく行くかが問題。
ここで何かあったら雅紀の所へは行かせられない。
潤にはくれぐれも無理をしない事や暑さ対策など色々と教える。
当日は俺は1日落ち着かなかった。
でも途中で入るLINEでは結構順調に進んでいるようで、
「今、3人でファミレスにいる」と言うLINEが来た時はホッとした。
3人だけで会えたんだ。それだけでも行った甲斐があるし、行かせて良かった。
カズは特別な事は話さないかもしれないけど、潤は結構観察眼があるし、子供は割と鋭い。
大人が気が付かない事に気が付くこともある。
潤が見たまま、感じたままを教えて貰えれば良い。
それから数日後、俺の美容院でのバイトが終わる時間に潤が来た。
今日は仕事の後に少し時間があるので、何処かでカズの様子を聞く事にしていた。
あれからLINEである程度の事は聞いたけど、やっぱり会って話をした方が良い。
それに次の雅紀の事もある。
美容院の近くのファミレスに入って潤と話す。
茶髪がだいぶ馴染んでいる。潤は割と派手な顔立ちなので派手過ぎないか少し心配したけど、
意外と似合っている。
そんな話をしながらカズの話に入る。
勉強ばかりの事や友達がいない事はLINEで聞いていた。
友達がいないのは本人がそれで良いなら良いのだけど、一つ心配な事がある。
「カズはどんな格好をしていた?」
「かっこう?」
「洋服。何を着ていた?」
「え~っと、Tシャツにズボン」
「Tシャツは半袖?」
「当たり前だよ。こんな暑いんだから…」
「ちょっと変な事聞くけど、顔とか腕とかに傷みたいなものはなかった?」
「特にわからなかったけど…」
「そうか」
「兄ちゃん?」
さすがに不審に思ったのか心配そうな顔になる。
「ううん。何でもないから気にしないで良いよ」
そう。俺が疑っていたのはいじめ、もしくは虐待。
友達がいないというのは人それぞれだから必ずしも悪いこととは言えない。
だけどカズは2年からの編入生だ。それを考えるといじめの可能性もないとは言えない。
虐待はおじさん達からだ。俺がひっかかったのは、
「毎日おじさんから宿題が出て、終わるまで寝かせて貰えない」と言ったカズの言葉だ。
もうこれだけで問題に成りかねないけど、これだけでは確証にはならない。
私立は勉強が大変だと言うのはあるだろうし来年は3年生だ。
カズの為だと言われればどうしようもない。
とにかく暫くは様子見だ。
ただ良かったのはカズが俺に本当の事を話して良いと言った事だ。
潤の後ろに俺がいるとわかれば、これからは少しは本音を話してくれるだろうか。
少なくとも嘘だらけのLINEは、もう書いても無駄な事はわかった筈だ。
「ねえ、兄ちゃん。次はマサ兄ちゃんだよ。僕は絶対に斗真と行くからね」
「わかってる。そっちはもう一人頼んだ」
「だれ?知らない人とは行かないよ」
「そんな事しないよ。斗真のいとこ。潤もよく遊んで貰っただろう」
「ああ、カメ兄ちゃん」
俺の言葉に潤の顔が一気に明るくなった。