斗真に連れられてカズが出てきた。
僕の顔を見て苦笑いをする。
「やっぱりお前か。斗真だけの筈はないと思ったけど…」
「全然会えないから、ちょっと顔を見たくなったんだ」
「ここじゃあダメだ。駅前のファミレスでも行こう」
「大丈夫なの?」
「うん。友達と勉強してくると言って来たから」
それで駅の方へ3人で向かう。
僕の茶髪を見てカズが笑う。
「サト兄ちゃんの所でやってもらったの?」
「うん」
「良かったな。ずっと染めたかっていたからな。
潤は幸せそうだね」
「カズは幸せじゃないの?」
カズが黙り込んでしまった。
だけど顔を見ているだけでわかる。
大変なんだろうなぁ。おじさん達に気をつかって生活しているのがよくわかる。
「兄ちゃんには余計な事は言うなよ」
「うん」
一応、うなずいておく。そうしないと、これ以上何も話してくれない気がする。
「私立って宿題が多いの?」
「多いよ。来年になったらもっと大変になる」
「でも高校まであるんだよね。受験はないでしょう」
「そんな簡単じゃないよ。成績が悪ければ付属の高校へは行かれない」
「そうなんだ」
「潤みたいに髪を染めたり、自由になんて出来ないんだよ」
「おじさん達もきびしいの?」
少しだまっていたけど、もう一度僕の髪を見て怒ったように話す。
「毎日、夜はおじさんが出した宿題をやらされる。
終わるまで寝かせて貰えないし、夏休みも1日中勉強だよ。
遊んでいるひまなんてない」
「だけど友達と勉強するなら外へ出られるんでしょう」
今もそうやって出てきた。
「それはたまたま斗真が来たからだよ。それに友達なんていないし…」
「え?」
「2年からの編入だからね。誰も相手にしてくれない。
でも学校は勉強をしに行く所だからそれで良いんだよ」
「兄ちゃんにはこのままを伝えて良いよ」
「え?」
「どうせサト兄ちゃんに頼まれてきたんだろう」
やっぱりわかってたんだ。
「頼まれたわけじゃないよ。僕から兄弟ほうもんをしたいって言ったの。
だって本当は僕たちはいつでも会えるように同じ地域内に住むようにしたらしいよ。
それなのに全然会えないから……」
「え、いつでも会えるようにって、それ本当なの?」
「本当だよ。サト兄ちゃんから聞いたから」
「僕は違う事を聞かされてた。たまたま近くになったけど、
里心がついても困るから会わせないで欲しいって言われたって。
だから中学も潤が公立へ行くと知って俺は私立に編入するって言われた」
「兄ちゃん達がそんなこと言う訳ないじゃん」
「だけど僕たちをバラバラにしたのは兄ちゃんだよ」
「それは他に方法がなかったからだってマサ兄ちゃんも言っていたし、
カズだって納得したじゃん」
あの時、最後までぐずっていた僕を説得したのはカズだ。
それなのに今は兄ちゃんをうらんでいるなんて…。
やっぱり今の生活がきついんだろうな。
友達がいないなら余計につらいだろうな。
カズは少し人見知りの所がある。自分から積極的に友達を作るタイプではない。
おまけに家がそんなにきびしければ兄ちゃんをうらみたくもなるかもしれない。
「じゃあ、これで帰るよ。潤も元気でな」
「うん」
頷いてからマサ兄ちゃんの事を思い出して聞いてみた。
「マサ兄ちゃん、どうしているか知らない?」
「わからない。公立高校に落ちてから全く連絡が来ないから」
やっぱりカズも知らないか。
「斗真、今日はありがとうな。潤を頼むね」
斗真にもそう言って、ファミレスで飲んだジュース代も払ってくれてカズは帰った。