カズはじいちゃんと学校見学に行った結果、単位制の高校なら直ぐに入学が可能だと言う事でそこに決めた。じいちゃんの家の最寄りの駅から歩いて行かれる距離だ。
病院にも通いやすいし、単位制の方が自由だから良いかもしれない。
潤はカウンセリングの専門学校を決めてきた。
専門学校にしたのはすぐに入れるからで、実際にすぐに入学の手続きをしてきた。
俺も正式に復学の手続きをして、みんながそれぞれに動き出した。
俺は休んでいた間の単位はレポートで補っていく許可を得た。
だけど来年3年生になれるかは微妙な所だ。
1年くらいの留年は仕方ないと思っている。
これからもカズが中心なのは変わらない。
じいちゃんの家に来てから少し調子が良いけど治った訳ではない。
じいちゃんの家が物珍しくて、少しの間だけ忘れているのだろう。
あこちゃんの事も余り口にしないけど忘れてはいないようだ。
それはカウンセリングの先生からじいちゃんが聞いてきた。
カウンセリングでは,あこちゃんの話が出るそうだ。その時に、
「兄ちゃん達の前で言うと心配するから言わないようにしている」と話していたらしい。
これからは俺も潤も自分の事で忙しくなるけど、カズには何でも相談して欲しいと思っている。
あこちゃんの話も俺達がもっと冷静に聞ければ良かったのだろう。
だけどあこちゃんの話をすると、「あこちゃんはもういない」と否定する事しかしなかった。
潤ははっきりと「亡くなった」とも言った。
そう言う事があったから、俺達にはあこちゃんの話はしなくなったのかもしれない。
ある時、学校から帰ってきて一人でお菓子を食べていたカズに思い切って聞いてみた。
「あこちゃんとはどんな事をして遊んでだの?」
「え?」
カズが一瞬ビックリしたように俺を見て、
「僕の言うこと信じてくれるの?」
少し嬉しそうな顔で尋ねる。
「うん、信じるよ。だからこれからは俺にもあこちゃんの話を聞かせて欲しいな」
「ありがとう、兄ちゃん」
それからあこちゃんの話を黙って聞くようにした。
一緒に遊んだ話や出かけた話、あこちゃんの性格など……。
全てがカズの妄想かメル友の時にあこちゃんが書いた事だろう。
遊びに行ったことを詳しく話すのは、きっとあこちゃんが実際に行った事をメールに書いて、
カズがそれを自分と行ったように置き換えているのだと思う。
カズの中では妄想でも嘘でもない。
あこちゃんが体験したことは自分も体験したことだと思い込んでいるのだろう。
楽しそうにあこちゃんの事を話すカズを見ているのが辛くなるけど、
俺は黙って聞こうと決めた。潤はあこちゃんの話が始まると自然と席を外すので、
俺とじいちゃんだけがあこちゃんの話を聞いてあげる。
でも嘘だと分かっていて黙って聞くのは可なり辛い。
カズの為だと思ってそれでも黙って聞いているけど、話が終わって自分の部屋に戻るとぐったりしてしまう。同じ部屋で寝ている潤がそれを心配して、
「兄貴もほどほどにしないと病気になるよ」
「でも、あこちゃんの話をしている時のカズは楽しそうなんだ。
あの顔を見られるなら俺は大丈夫」
これが正しい方法かはわからないけど、今はカズの話を聞いてあげる事が
俺の役目だと思っている。