バスを降りて少し歩くとじいちゃんが手を振っていた。
「おじいちゃんだよ」
俺がカズに声をかけると、カズが怯えたように潤の手を握る。
元々人見知りの所があり、病気になってから少し幼くなったように感じる。
色々な不安がそうさせているのだろう。
「じいちゃん、連れて来たよ」
俺が声をかけると、
「よく来たな。こっちが潤でこっちがカズだな」
「そう。さあ二人も挨拶して」
「潤です。お世話になります」
カズもペコリと頭を下げた。
「固くならんで良いぞ。気楽に暮らしてくれ。
さあ家の中に入ろう」
ふふ、ここからが少しビックリするだろうな。
門を入って玄関まで歩くけど、とにかく庭が広い。
池もあるし、じいちゃんが自分で作ったと言う木のテーブルと椅子が置いてある。
これがまさに本職並み。可なり手先が器用みたいだ。
家の中にもじいちゃんが作ったと思われるものがたくさんある。
既に庭だけで二人とも興味津々になっている。
そして家の前に着くともっと驚く。
おじいちゃんの家と言うだけで、なんとなく和風の家を想像しそうだけど、
ここは外見は完全な洋風。
外壁も少し鮮やかな色で、周りの家と比べても少し目立つ。
家の中は和洋折衷。でも思ったほど大きくはない。
じいちゃんは「庭に金をかけ過ぎた」と笑っていたけど、俺には調度良い大きさ。
初めてここに来た時は、庭だけでどんな豪邸なのかと少し気後れしたけど家に入って安心した。
この家で和だと思うものは掘り炬燵だ。
今は炬燵は使わない時期だからテーブル代わりになっている。
「冬はここから出られなくなるよ」
俺が二人に声をかける。
二人とも庭に入った時から声も出ない状態になっている。
でも顔を見ている限り不快な印象は持っていないようだ。
「掘り炬燵って初めて見た」
潤とカズが珍しそうに掘り炬燵の中を覗いたり、周りを見わたしたりしている。
そこにじいちゃんがジュースとお菓子を持ってきてくれた。
それを一口食べて二人ともビックリした顔になる。
俺はそれが楽しくて二人を見ながらニヤニヤしてしまう。
「どうだ、味は?」
「おいしい!」
「クッキーもジュースも凄くおいしい。何処で買ったの?」
「買ったんじゃないよ。俺が作ったんだ」
「じいちゃんが作ったの?これ全部?」
「このくらい大したことはない。もっと色々と作れる。
食事も全て俺が作るから楽しみにしていて」
料理にも可なり自信があるようだ。全般的に何かを作るのが好きなのだろう。
俺がじいちゃんに惹かれたのもそう言う所だ。
何でも買おうとしない。作れるものは作る。
この家の中の家具も殆どはじいちゃんが作ったものらしい。
「お前達も何か作ってみると良い。楽しいぞ」
「でも、やったことないし……」
「やり方は俺が教える。自分だけの物が作れるのは楽しいと思うぞ」
「自分だけのもの?」
「そうだ。例えば自分の作った茶碗で、自分で作った料理を食べると何倍もおいしいぞ。
最も今日は最初だからな。寿司でも取ろうと思ってる」
「お寿司よりおじいちゃんの料理が食べたい。僕も手伝って良い?」
そう聞くカズの顔が少し輝いて見える。
じいちゃんが俺を見て笑顔で頷きながら、
「よし、じゃあ一緒に作るか」と、カズに答える。
もうすっかり馴染んできた感じだ。
俺はカズがここへ来てから、まだ「あこちゃん」の名前を出していないことに驚いていた。