慎吾が帰国したので、圭吾のドラマの経緯を聞くけど、
「オファーが来た時はまだ圭吾は向こうの事務所にいた筈だし、
俺は一切仕事に口出しはしていない」
「わかりました」
実はこっちの問題の方はほぼ解決していた。
潤が圭吾の前事務所に連絡したところ、前事務所側から打診した話だったそうだ。
それで潤がそのドラマのスタッフに「事務所が変わっても有効なのか」と確かめたら、
「お父さんと同じ事務所なので却って好都合。何も問題はない」と、監督自ら連絡をくれたそうだ。
これでこっちは落着。
問題は隼人が言っていた事の方だ。
隼人と対決させることも考えたけど、百戦錬磨の慎吾に勝てるはずもなく結局俺が話を聞くことになった。他の4人は敬遠して来て、ほぼ無理矢理押し付けられた。
「同期だし、智なら慎吾さんも素直に話しそうだから」と、言われた。
素直にと言うのが少しひっかかった。
もしかして、他のメンバーも疑っているのか。
それはあり得ない。
確かに不仲説は全く嘘とは言い切れないかもしれない。
だけど慎吾が和馬を嵌めるなんて事はない。
勝負するなら芝居で、仕事で決着を付けようと言うタイプだ。
ある夜、個室の店で二人で話す。
ここに呼び出した時点で特別な話だと気が付いたようだ。
「圭吾の事ではなさそうだな」
「そっちは決着が付いた。あのドラマへのゲスト出演が決まったよ」
「そう。せいぜい足を引っ張らないように言ってくれ」
「自分で言えよ」
「仕事の事は全て事務所に任せている」
「そうだな」
早く本題に入りたそうなので、隼人から聞いた事を全て話す。
俺は話しながら慎吾の表情をずっと見ていた。
話し終わると大きく息を吐いて、
「和馬の事は一生付いてまわるな」
「そうだね。翼がいるから余計だろうね」
「智は噂は信じてるの?」
「まさか……。信じていたら来ないよ」
「それを聞いて安心した。同期が信じてくれていれば俺はそれで良い。
今のところ騒いでいるのは隼人だけなんだろう」
「まあ、そうだね。でも本当にそう思っている人は結構多そうだよ。
それで隼人と圭吾がちょっと揉めたし、俺は慎吾より圭吾の方が心配」
「あいつは大丈夫だよ。俺が悪く言われるのは慣れている。
それに優秀なマネージャーがいれば心配ない」
確かにいきなり隼人が怒ったから驚きはしただろうけど、家に訪ねて行った時は既に落ち着いていた。まだ15歳なのに隼人より大人だな。
「ところで翼と飲み友達なんだって?」
「家が近くてな。たまに飲む。うるさくないのが好きだ。
少し神経が細かい気はするけど、話していて疲れないのが良い。
最初は和馬とは似ていないと思ったけど、最近少し似て来たかな。
それともお節介な同期の影響?」
「まあね。立場柄、世話を焼きすぎるくらい焼いてきたからね。
でもしっかりしてきたよ。これからもたまに付き合ってあげてくれ」
「良いの?断られるかと思った」
「まさか……」
なんだか腹の探り合いのような会話だな。
立場上、仕方ないのかな。
「翼は心配ないけど隼人の交友関係には気を付けた方が良い」
やっぱりか…。隼人の友達は俺も気になっていた。
「何か知ってるのか?」
「噂だけどな、余り良い話は聞かない。勿論、女の子もいる。
週刊誌が騒ぐ前に何とかした方が良いだろうな。
まあ俺の言う事を誰が信じるかだけどな」
「翼と俺は信じるよ」
「翼は俺と仲が良いと言う事は余り知られない方が良いな。
それこそ嫌われる可能性がある。隼人とは今まで通りには行かなくなるぞ」
「それは本人に決めさせる。もう30も半ばだぞ。周りがあれこれ言う年ではない。
それにあいつも色々な経験をしているから人を見る目はある」
「俺と飲み仲間なのに?(笑)」
「ちょっと意外な関係だったけど正直安心したよ。
ここが仲良くしていてくれれば心配はない」
一通り喋って飲んで、楽しい話ではないけど、飲むのは楽しかった。
「ああ、お前と飲んでると東京だと言う事を忘れそうになるんだよな」
「どういう意味?」
「田舎でのんびり何も考えずに飲んでいるみたいになる」
「これでもバリバリ大手の芸能事務所のマネージャーなんだけど(笑)」
「マネージャーくらいで威張るな」
「社長くらいにならないとダメか」
「お前が社長になったら間違いなく潰れる」
「確かに…」
最後は二人で笑っていた。
やっぱり俺と慎吾は何年経っても、こういう関係でいられるんだな。
少し深刻な話の内容とは別に、慎吾と飲むのは楽しかった。