地獄の学校【社会人編】 25 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

「大丈夫?大野くん」

 

「すみません。大丈夫です」

 

「紅茶にする?」

 

「いえ、コーヒーで良いです」

 

「ゴメン」

 

達也くんが謝る。

 

「ううん。達也くんのせいじゃないよ。時々何かのきっかけで思い出すんだ。

 いつもは忘れているのに、今は余り出かけないけど事故の後は外を歩いていても

 怖かった。でもここへ来て雅也さんと出会って、雅也さんも未だに苦しんでいるのを

  知って…」

 

「事故は何年経っても忘れられないよ。被害者も加害者も……。」

 

「だから俺が傍にいても良いんでしょうか?

 雅也さんはわざと苦しい道、険しい道を選んでいるような気がするんです。

 俺やニノの為だったらもう辞めて欲しいんです」

 

 

「そんな訳ないだろう」

 

上から声がして松兄が入って来た。

 

「松岡くん、呼んでませんよ」

 

「わかってるよ。和也の伝言を伝えに来ただけ」

 

「カメくんの?」

 

「もし仕事をやりたいのなら俺と一緒にやろう。助手の方は来年達也が卒業したら

 やってもらう。それまでは岡田もいるし大丈夫だって。

 雅也も気にしてた。最初の予定とどんどん話が変わって行くから、

 混乱させてすまなかったって……」

 

「いえ、そんなんじゃないんです。勿論、それもあるけど……」

 

「そう。智が気にしているのはごくシンプルだけど、本人にとっては重大なこと。

 家族の中に他人か加わっても良いのかって事だよな」

 

「え?そうなの?」

 

達也くんに聞かれて頷く。

 

「何だそんな事と思うなよ。他人にとっては結構重大なこと。

 特に仲が良い所を見せられたりすると複雑な気持ちになる。

 これは俺と岡田じゃないとわからないかもな。

 それとな智、雅也は好きでこの仕事をしているんだよ。

 お前の気遣いは却って失礼になる。それじゃあ、お邪魔さま」

 

そう言ってまた上から帰って行った。

 

 

そうか。俺が気にする事ではないんだな。

 

だけど一つ気になる事を松兄が言った。

 

「岡田くんって他人なの?」

 

「他人だよ。苗字違うじゃん」

 

「嫌、だけど親戚とか…」

 

「どうしてそう思ったの?」

 

真也さんが聞いてくる。

 

 

「なんだか凄く馴染んでいるし、雅也さんとも軽口聞いているから…」

 

「そこが兄さんの嫌がるところ。日本人は地位によって態度を変える。

 最初は勿論それは必要だけど、ある程度親しくなったら敬語はいらないよ。

 ただ仕事の時は別なんだけど……岡田は少々特殊」

 

「仕事とプライベートで使い分けるなんて器用なこと出来ないよ」

 

 

岡田くんが自由で少し肩の力が抜けた。

 

「無理して人に合わせることはない。自分は自分で良いんだよ。

 俺も既にやっていた仕事を捨ててこっちへ来たから、暫くは自分の気持ちが

 定まらなくて……」

 

「真也さんと直也さんは教員資格を持っているんですよね。

 そう言う仕事をしていたんですか?」

 

「直也は兄さんの仕事を手伝うつもりでいたから、その為に高校の教員資格を取って、

 実際に高校で働いていた。だけど俺の前職は税理士。

 ここが出来ると決まってから、通信大学で不足分の単位を取って教員試験を受けた」

 

「せっかく税理士になったのに、後悔とか迷いはなかったんですか?」

 

 「迷ったよ。ここに入ってからも可なり迷った。

 それで一度とんでもない大失敗をして兄さんに怒られて3日間監禁されて、

 辞めるなら辞めても良い。あやふやな気持ちのままやられても迷惑だって言われて、

 それが自分を見つめ直す時間になった。

 ここでやって行こうと、その時に決意できた」

 

 

やっぱりみんな苦労してるんだよな。

順調に来ている人なんていないんだ。

 

 

「今は幾らでも迷っても良いと思うよ。

 だけどね他人が加わる事を気にしているのならそれは不要。

 同族会社って結構難しいんだよ。身内ばかりだと我儘も出てくるからね。

 それだけに他人がいてくれた方が助かるんだよ」

 

「うん。兄さんばかりだと息が詰まる」

 

「お前がそう言う事を言うか。兄弟で一番の自由人のくせに」

 

 

達也くんがいると和むな。これも末っ子の特権かな。

 

「直ぐに決めなくても良いんじゃない?今までだって助手はやっていたんだから。

 ほら、これも君の仕事のお陰。ちゃんと役に立ってるよ」

 

 

俺がパソコンで作った生徒名簿。

それを綺麗にファイルに閉じてあった。

 

そうか、役に立っているんだ。

 

それに助手をやれば仕事の全貌がもっとわかってくる。

今までは課題も出されるままにやっていたけど、これからは誰に何を依頼したら良いか、

俺は何が出来るか、そう言うのも見極められるかもしれない。

 

 

「うん。だいぶ良い表情になってきた。

 どうする?今日はここに泊っても良いよ」

 

「俺、泊りたい」

 

「お前は自分の部屋に帰る」

 

達也くんが残念そうな顔をする。

 

 

「智も戻った方が良いかもな。このままだと和也が乗り込んできそう」

 

「ええ?」

 

「LINEがうるさいの。見て」

 

そう言ってスマホをテーブルに置く。

確かにカメくんのLINEがずらっと来ている。

 

「智くん、愛されてるね」

 

「お前が言うと気持ち悪い」

 

達也くんと真也さんの言葉に思わず笑う。

 

 

「帰ります」

 

そう言って立ち上がった。