続・付き人奮闘記 32 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

家に着いてすぐにお風呂を沸かす。

 

その間に「翼、手伝って」、そう言って奥の部屋へ向かう。

ここは普段使わない物をしまってある。

 

和馬の物は大きな段ボールに二つ。

 

「こんなにあるの?」

 

「重たいから気を付けて」

 

何とか二人でリビングまで運ぶ。

 

 

今すぐ見たそうにしているのを宥めてお風呂へ入れる。

今日も夕飯は食べてきたので、食べている暇があるかはわからないけど、

軽いおつまみを作る。

 

翼と入れ違いに俺が風呂に入る。

「待ちきれなかったら開けていて良いよ」と言ったけど、

「智さんと一緒に開けたい」というので俺は急いでお風呂へ向かう。

 

上がってきたらじっと段ボールを見つめていた。

 

 

「これ、ずっとあの部屋にしまっていたの?」

 

「イヤ、数年前までは実家に置いていた。一時は和馬の事を思い出すのも辛かったから、

 一層の事処分してしまおうかと思った事もあったけど出来なかった。

 翼を担当するようになって、翼プロジェクトを作ってからだな。

 いつか翼に見せたいと思って、この家に持ってきたんだ」

 

「どうして今まで見せてくれなかったの?」

 

「タイミングを待ってた。プロジェクトを作った頃は自分の事だけに専念して欲しかったから、

 和馬の話は二人で随分していたから、今はそれだけで良いと思っていた。

 でも翼も売れ出して仕事も順調になって、和馬の歌を歌いたいと言い出した今がいよいよ

 その時だと思って、レコーディングが終わるのを待ってたんだ」

 

まだ開けてもいないのに、既に泣きそうになっている翼。

 

「さあ、開けるよ」

 

二つの段ボールを一遍に開ける。

一つにはお蔵入りになったCDや和馬が趣味で歌って録音したテープなど、

もう一つには和馬が自分で作詞したノートや、プロマイドや自分のグッズなど、

和馬の死後、マンションをお母さんと片付けた時に、

「これは大野さんが持っていてあげて」と、渡されたものだ。

 

 

まずは和馬が作詞したノートから見て行く。

翼が大事そうに1冊を取ってページをめくって行く。

 

これは長くなりそうだと思ったので、俺はキッチンへ行って軽い夜食を作る。

ご飯を急いで焚いておにぎりを作って、後は翼の好きな梅干しとお茶と、

さっき作ったおつまみ。

お手拭きも用意して持って行く。

 

「翼、おにぎり作ったよ」

 

「うん」

 

漸く1冊目が終わりそうだ。

 

1冊目が終わって、一旦ノートを閉じておにぎりを手に取る。

 

「凄いね、和馬さんの詩の世界」

 

「少し独特でしょう。これは全く公にはしていないものだよ。

 俺も見るまで和馬がこういうのを書いていたとは知らなかったから」

 

「和馬さんが作詞した曲がアルバムの中にあるけど、あれともまるっきり違うね」

 

「あれは歌手として書いた作品、こっちが本当の和馬だと俺は思っている」

 

「うん。俺もそう思う。大野さんも好きそうだよね、こういう感じ」

 

そう言いながらまた丁寧に見て行く。

 

この詞の一番最後にどうしても翼に見て欲しい詞がある。

俺も驚いたくらいだ。そろそろかな。どんな反応をするかな。

 

いよいよ、最後の1枚をめくった。

 

その途端に翼の動きが止まった。

 

次の瞬間には涙が溢れ出していた。

 

そのタイトルは、

「もしもぼくに弟がいたら」。

 

今までの歌詞とはガラッと変わている。

 

そして、この詞の一番最後に、

 

「もしもぼくに弟がいたら 翼と呼んでみたい」と、書かれている。

 

「大野さん、僕の名前って……」

 

「おばさんには聞いていない。でもおばさんもこのノート見ているからね。

 もしかしたら、そうだったのかもしれないね」

 

 

だとしたら、翼の名付け親は和馬になるのか…。

 

「ねえ、この歌は残ってないの」

 

翼が夢中でCDやカセットが入った段ボールの中を漁っている。

 

「翼、落ち着いて。俺も何度も調べたけど、このノートに書いてある詞は

 殆ど歌にはなっていない。少なくともここにはない」

 

「じゃあ、うちの実家」

 

「だけど翼の実家にあるのは数年前に聞かせて貰ったでしょう。

 それに残っていればすぐにわかるでしょう」

 

「うん」

 

少し元気なさそうに頷いた。

 

俺も他の詞はわからないけど、これは歌にはしていない気がする。

 

 

「その歌詞、ノートの番号順に書いたとすれば、その詞が一番最後だよね。

 もしかしたら亡くなる直前に書いたのかなって……」

 

そこまで言って俺が泣いてしまった。

今日は泣かないって決めたのに、でもこの詞を見るたびに泣けてくる。

 

 

 

 

「そのノート持って帰って良いよ」

 

「でも……」

 

「俺はコピーを取らせて貰ったからそれで十分。

 それにこれは翼のお兄ちゃんの物だから、翼が持っているのが一番喜ぶよ」

 

 

ノートを見るだけで可なりの時間が経ってしまった。

明日も仕事があるし、そろそろ止めないとな。

 

「翼、今日はノートだけにしよう。もう遅いからCDはまた今度にしよう」

 

「うん」

 

もっとごねるかと思ったけど、あっさり承知してくれた。

 

和馬の詞の世界にどっぷりと嵌って、お腹いっぱい、胸いっぱいになったかな。

 

そして最後にあの詞だ。

まるで翼の為に書いたような詞だ。

 

今日はこの詞の世界にどっぷりと浸かりたいのかもしれない。

他の物が入る余地はなさそうだ。

 

翼は最後の1冊だけ抱えて布団に入った。

 

あのノートは宝物と言うより、お守りになるかもしれないね。

 

 

和馬、翼が読んでくれたよ。良かったね。