続・付き人奮闘記 22 | chihiroの気まぐれブログ・これからも嵐と共に

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2021年1月。嵐さんの休業を機に、妄想小説を書き始めました。
主役は智くんで、メンバーも誰かしら登場します。ラブ系は苦手なので書けませんが、興味のある方はお立ち寄りください。

 

 

 

そんな中、隼人に試練が続いた。

 

ある朝、迎えに行くと家の中からお母さんと隼人の声が聞こえてきた。

ここはアパートみたいなものだから、部屋の中の話も筒抜けだ。

やっぱりもう少しマンションらしい所へ越した方が良いな。

 

「隼人、本当に良いの?」

 

「この仕事は簡単に休めないんだよ。それに今は大事な時なんだ。

 俺が勝手な事は出来ない」

 

なんとなくただ事ではない会話。

何かあったのだろうか。

 

 

俺はチャイムを押した。

 

「はい」

 

隼人の声がして開けてくれた。

 

「おはようございます」

 

隼人が笑顔で迎えてくれる。

でも目が少し赤い。泣いてた?

 

まだ時間もあるのでとりあえず中へ入る。

 

「ちょっと話し声が聞こえてしまったのですが、何かありましたか?」

 

お母さんが隼人の方を見ながら答えた。

 

「実は母が亡くなりまして……」

 

「え?あのケガをしたという……」

 

「去年の暮れから体調を崩して入院して、快方に向かっていたんです。

 もうすぐ退院できるなんて言っていたんですけど、今日の夜中に急変して……」

 

「そうですか」

 

「隼人はおばあちゃんっ子でしたから、最後のお別れぐらいさせてあげたいと

 思ったのですけど、仕事は休めないって……」

 

「隼人、おばあちゃんに会っておいで。仕事の方はなんとかなるから」

 

「そう言う訳にはいきません。この間、○○さんもお父さんを亡くしたのに

 仕事に来ていました。俺だけ特別扱いは出来ない。特に今は…」

 

俺の事で色々と言われている中で、勝手な事は出来ないと言う事なのだろう。

 

 

「さあ大野さん行こう。母さん、俺の分もおばあちゃんにお別れして来てね」

 

そう言った途端に嗚咽が漏れた。

 

「隼人」

 

「ゴメン、大丈夫」

 

気丈に振舞おうとする隼人がいじらしい。

 

芸能界は身内の死に目にも会えないと言われる。

忌引き休暇なんてものもないし、だけどまだ若い隼人には辛いだろうなぁ。

 

 

今日の仕事はこんな日に何の因果か、以前、隼人のおばあちゃんがケガしたスタジオで行う。

隼人も普通に振舞ってはいるけど、少し表情が固い。

 

楽屋でも「なんでこんな日に…」と言っていた。

ただでさえ忘れたい事なのに、これでは余計に思い出してしまう。

 

 

そんな時、スタッフの話し声が聞こえた。

 

「そう言えば数年前にこのスタジオで一般客がケガをしたんだったよな」

 

「ああ、あったな。年寄だったな。一緒にいた孫が俺達にまで文句言って、

 あんなところにいる方が悪いんだろう。良い迷惑だよ」

 

「なんでこんな所に来てたんだ。スタジオ見学か?」

 

「ああ、何処かのスタジオでやっていたんじゃないの。迷子になってこっちに来たんだろう」

 

その話はそれで終わらず、別のスタッフまで加わってどんな風に落ちたかとか、

笑いながら話している。

 

俺は話の途中から隼人をその場から離れさせようとしたけど全く動こうとしない。

手のひらを握りしめて小刻みに震えている。

 

 

「やめてください」

 

とうとう隼人が口を切った。

 

「その年寄りと言うのは俺の祖母です。

 あの時は俺の体調が悪かったので付き添いに来てくれていたんです」

 

「ああ、そうなんだ。ばあちゃん元気?」

 

「……今日の夜中、亡くなりました」

 

周りが一瞬、静かになる。

 

「死因は?」

 

「病気です。去年から入院してましたから」

 

ふ~っと、息を吐くのが聞こえた。

 

みんなケガと関係なくて安心しているのだろう。

 

 

「それで元気がなかったのか?」

 

誰かが言う。

 

「大丈夫?」と気遣ってくれる人もいるけど、当然ながらみんな他人事だ。

 

「おばあちゃんなんだろう。親が亡くなったのなら可哀想だと思うけど、

 ばあちゃんが亡くなったくらいで何をメソメソしてるんだよ」

 

「俺も去年、じいちゃん亡くなったけど、平気で仕事してたぞ。

 親兄弟じゃあるまいし、じいちゃん、ばあちゃんになれば仕方ないんだよ」

 

「でもお前まだ若いよな。おばあちゃんって幾つだったんだ」

 

「62です」

 

「え?そんなに若いの」

 

 

 

その時、先日父親を亡くした共演の芸人さんが言った。

 

「人の死に年なんて関係あるんですか。ましてやおばあちゃんだから我慢しろとか、

 まだ若い隼人に酷すぎませんか。おばあちゃんでも親でも人の死に変わりはないんですよ」

 

 

隼人が絶えられなくなって楽屋に駆け込んでしまった。

 

知り合いのスタッフが俺の傍に来た。

 

「ごめんな。悪気はないんだろうけど、どうしても祖父母となると、

 高齢なんだから仕方ないと思っちゃう人間が多いんだ。

 62だなんて俺とたいして変わらないのに……」

 

別のスタッフが近づいてきて、

 

「隼人、今日休ませても良いよ。収録は後回しに出来るから無理はさせないで。

 おばあちゃんの所は遠いの?」

 

「確か○○だって言ってました」

 

「お別れさせてやってきなよ」

 

「でも……」

 

「お願いします、大野さん。隼人のあんな様子は見ていられない。

 お別れしてすっきりして帰ってきて欲しいんです」

 

さっきの芸人さんがそう言ってくれる。

 

 

みんなの気持ちが心に染みる。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

俺は頭を下げて、急いで楽屋へ向かった。