2020年12月31日。
恐らく一生忘れられない日だろう。
俺はこの日の朝、珍しく実家に電話した。
「じゃあ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい」
母ちゃんの声を聞いて、ちょっとグッときそうになった。
俺をこの世界に導いてくれた人。
母ちゃんがジャニーズに履歴書を送っていなければ、
今の俺はいない。
お陰でたくさんの経験と、大切な宝が出来たよ。
いつものようにマネージャーが迎えに来て、いつものように会場へ向かう。
楽屋へ入ってメンバーの顔を見た時、俺は、
「今日は思いっきり楽しもう」
そう心に決めた。
初めての生の配信ライブ。
潤が寝る間も惜しんで精魂込めて考えてくれたプラン。
それをこれから俺たち嵐5人で最高の作品にしてやる。
何よりもライブの出来を、この不自由な状況のせいにはしたくなかった。
だからこそ、今考えられる全てのことをやりたかった。
ファンの子にもたくさん協力してもらって、嵐らしいライブ、
あの状況の中で、この5人だから出来る精一杯のライブをやったつもりだ。
俺も1曲振り付けを担当した。
この4人に振り付けるのは、もしかしたら最後になるかもしれない。
俺も含めた5人らしい、嵐らしい振り付けをやったつもりだ。
でも、あのライブ、ちょっと困ったのが俺をフューチャーしている部分が少しある。
俺が振り付けた曲が続いたり、俺が国立の時にデザインした衣装を再び着たり、
極めつけは紅白の出場が終わってすぐの、後半に入るナレーション。
「ナレーションは無理だよ」
「大丈夫だよ。」
「俺のナレーションのせいでライブがぐちゃぐちゃになったらどうするんだよ」
「良いよ」
平然とした顔で潤が言った。
その顔を見て、俺も腹をくくった。
実はあのライブ、俺の中でのキーポイントは最後の挨拶だった。
短い時間の中で、どれだけ自分の思いを伝えられるか。
普段は思ったことをそのまま口にしている感じで、
長いツアーだとだいたい似たような内容になってしまうけど、
今回だけは自分の伝えたいことを全て伝えたい。
それも泣かずに…。
俺が涙もろいことはみんな知っていたし、むしろあの場面は泣いても良いところだったかもしれない。
でも、ひとまずの最後の日だったから、俺は最後までしっかりと話したかった。
ジャニーさんの話をした時だけ、少し危なかった。
俺の、俺たちの大切な恩師。
休業を告げに行った時も、
「20年間ご苦労さま」と、言ってもらえた。
あの言葉を支えに、俺はその後の2年間を乗り切ってきた。
空に向かって
「ジャニーさん、観てる?」と言ったけど、
本当に観て欲しかった。
後はファンの子や今まで助けてくれたスタッフへ、
伝えたいことは伝えられたと思う。
話し終えて頭を下げたとたんに涙も零れそうになって必死に堪えた。
2020年12月31日が終わった。
2年間ずっと目指してきた一旦のゴール。
俺ららしく、嵐らしく終われただろうか。
あんな状況下だったから出来なかったこともたくさんあった。
でも、全てをひっくるめて、これが嵐だったのだと思う。
紅白の時の「カイト」の間奏のニノの台詞を思い出す。
叶わなかった夢も
嵐の21年の歴史の一部です。
2020年12月31日。
俺たちは嵐の21年間の歴史に一旦の幕を閉じた。
最後まで笑って終えられたと思う。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ソファーの上で目が覚めた。
いくつになってもこの癖は治らない。
20年前の事を思い出しながら眠ってしまったようだ。
さあ、今日は2040年12月31日。
本当に嵐最後のライブ。
会場へ集まってくれるたくさんのファンの人達と、
今では当たり前になった配信で観てくれる人たちへ、
俺たちの精一杯を届けたい。
20年前の俺に負けないように…。
第1章 終わり。
なんとか10話に詰め込んだので、最後が少し雑になっているかもしれないけど…。
第2章は完全な妄想と憶測の世界になります。
それと並行して、番外編として智くん以外のメンバーのことも、
少し書けたらと思っています。
気が向いたら引き続き読んでみてください。