2日目にも肝炎に焦点をあてたシンポジウムがあったが、A型肝炎の流行をまえに、学会最終日にも緊急シンポジウムが組まれた。

 駒込病院、東京医大、大阪医療センター、九州医療センターから、東京・大阪・九州の状況が報告された。いずれもエイズ拠点病院からの報告で、MSM(男性間で性行為する人)でHIV陽性の患者さんの症例だが、各病院の受診者数から考えと、高い割合の発症が出ているし、このほかにHIV非感染のMSMの発症もあることを考えると、感染流行が如実にうかがわれる。アウトブレイクと称してよい状況が確認された。

 ウイルス株の系統分析の紹介もされていた。現在、MSM間に流行している株は、2015年に台湾で、ついで2016年にヨーロッパで流行したものとおなじあり、近年日本で流行してきたものとは異なるという。

 欧州での流行開始は、それに先立ちアムステルダムで開催されたLGBTの大規模イベント「ユーロプライド」との関連も指摘されている(ユーロプライド自体は欧州都市で毎年、回り持ちで開催され、世界中から参加者が集まる)。ゲイツーリズムと呼ばれる、ゲイの旅行行動と、旅先での旺盛(?)な経済活動や性行動との関係は、感染症の流行分析にも押さえておきたい視点だ。

 日本でも、東京、名古屋、大阪、福岡と、今回の流行地域には、ゲイイベント(パレードやクラブ)やスポット(バー、ハッテン場)が展開し、出会いを促進するツール(スマホアプリなど)と安価な移動手段(早割、LCC等)でつながっている。ゲイツーリズムに乗って運ばれてきたウイルスが、台湾、欧州を経て、日本にも到達したようだ。

 

 今後の対策として、駒込病院の今村顕史医師から、東京で対策に取り組んだ経緯が紹介された。予測しない流行対策に、あらかじめ組まれた予算はない。手持ち研究班費用のやりくりと、MSMコミュニティーー具体的にはコミュニティーセンターaktaとぷれいす東京との共同で、情報発信に努めた。

 MSM間の流行ということで、ゲイバッシングにつながらない配慮が求められる。予防にはワクチン接種が有効だが、一般に広報することでワクチン不足を招きかねない。必要な人へダイレクトなメッセージングが大切だ。

 同時に、性行為時の注意喚起には限界もある。発症者からは1か月近く、便中にウイルスが見られ(しかもノロウイルス並みに大量)、パートナーなど周囲の人への二次感染への留意も指摘された。

 現在、アウトブレイクは収まりつつあるとはいえ、流行は長期化も予想される。2015年に台湾で流行したときも、約1年半、継続したという。ゲイツーリズムの現実も含め、オールジャパンで取り組む必要がある、と強調された。

 全体討論でも、(今回は拠点病院からの報告のため)HIVの人へはまだ伝えるルートがあるが、非感染の人へどう伝えるか、またワクチン接種のときMSMが性感染予防だと言いづらいことも指摘された。

 

 MSMコミュニティの一人としては、流行の事実と感染経路を正しく理解し、責任ある機関から終息の声明がされるまで性行動を抑制する、性行為後の身体の異変に注意する(家庭内感染などへの注意)、ワクチン接種の検討などが重要ではないだろうか。接種の費用の考え方や「言い訳」については、前回の拙稿もご参照ください。

 

 aktaによる、MSM向けアラート情報