抗レトロウイルス治療を継続し、HIV量が検出限界値未満の状態を維持していれば、HIV陽性者から他の人へのHIV性感染のリスクは実質的にない。このメッセージは《U=U》と呼ばれ、世界各地で理解を広げるキャンペーンが展開されています。

日本国内ではどうなのか。学会2日目の3日午後4時半から第5会場でシンポジウム《U=UUndetectable = Untransmittable 誰が何をどう伝えるか:陽性者の人権とスティグマゼロへの取り組みを視野に入れて》が開かれました。

Undetectable = Untransmittableといわれても、なんだかよく分からないと感じる方がいでしょうね。かく言う私も、たった2つの単語を打つ間に3回も綴りを間違えてしまいました。ああ、ややこしいなあという愚痴は抑えて先に進みましょう。日本語に訳すと『検出限界値未満=感染しない』。

えっ、まだ分かりにくい?そうかもしれません。

ただし、この日朝の総会では『U=Uの科学的エビデンスを日本エイズ学会として支持する』との立場が公式に確認され、午後の会長講演でも白阪琢磨会長が重ねてそのことに言及しています。今学会注目のイシューと言っていいでしょう。シンポジウムは会場が比較的、小さな部屋だったこともあり、立ち見が出るほどの超満員でした。

分かりにくい。でも、気になる。最近はHIV/エイズ対策への関心の低下がしばしば指摘されているだけに、この「気になる感」は重要です。逆にいえば、だからこそ立ち上がり段階のこの時期に課題をしっかり議論しておきたいということでもあります。

シンポではまず、創設間もないU=U Japan Projectの山口正純さんが国際的なキャンペーンの流れや考え方を説明しました。これまでの研究の蓄積で、抗レトロウイルス治療を受け、体内のHIV量が検出限界値未満の状態を6カ月以上、維持しているHIV陽性者から他の人にHIVが性感染するリスクは実質的にないというエビデンスが得られています。20167月にHIV陽性者やアクティビスト、基礎、臨床、疫学の専門家らが、このエビデンスに関するコンセンサス声明を発表し、キャンペーンはスタートを切りました。この2年余りの間に、国連合同エイズ計画(UNAIDS)や世界の主要都市、および国レベルでも賛同を表明するところが増えています。

 

    

 

(参考までに写真はUNAIDS発行のU=U解説書。API-NETに日本語版もあります)

 

予防としての治療(T as P)がどちらかというと医療提供者中心の予防メッセージであるのに対し、U=UHIV陽性者の人権を重視し、社会的な排除や差別を解消することに主眼がおかれています。

日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスの高久陽介代表は、Futures Japanのウェブ調査などの結果から、検出限界未満なら感染しないということを知っている人の割合がHIV陽性者で80%、ゲイ男性で40%、一般住民30%であることを示し、U=Uの認知度向上がHIV陽性者のQOL向上の観点で重要だと述べました。また、内部障害の身体障害者認定基準がU=Uとの間でミスマッチになっていることから、意識レベルの課題だけでなく、制度的な対応が必要なことも指摘しました。さらに、さまざまな事情でU=Uの達成に至らない陽性者が存在する中で、《U=U「だから」差別しない》 というメッセージでいいのか?という点にも注意を喚起しました。

シンポの2日前(世界エイズデー当日)に大阪でU=U啓発のクラブイベントを開催したMASH大阪の塩野徳史さんはU=Uと予防啓発をめぐる以下の6つのメッセージを1年がかりで準備したことを明らかにしました。

・みんなリスクを持っている

SEXも恋愛もあきらめない

・早く分かればメリットも大きい

・つけて、やろうぜ

・治療すれば、うつらない

HIV以外にも性感染症はある

そのうえで、パートナーなどに性行為でHIVが感染することに不安を持つ人がその不安を解消できること、キャンペーンを通じHIVステータスについて話せる雰囲気が広がれば、無防備な性行為も変わっていく可能性があることなど、心理面からの予防効果にも期待を寄せました。

北海道大学病院の渡部恵子さんは看護師の立場から、医療現場でU=Uについてどう伝えているかを報告しました。

会場ではU=U Japan Projectの資料が配布され、日本語のキャッチコピーを募集していることも紹介されました。

あくまで私見ですが、「U=U」は分かりにくいメッセージではありますが、その分からなさが逆に「何だろう?」というフックを生み出し、妙に気になるという考え方もできます。

キャッチコピーは《U=U》で押し通し、「何だろう?」の部分に分かりやすく説明する文章やビジュアルなどを付けていく手法が日本には適しているようにも思います。

U=Uはキャンペーンのメッセージとして訴求力が強く、魅力的ですが、課題も多く抱えています。関心は人によって多様であり、課題もそれぞれの関心のありようによって異なってくるかもしれません。

したがって、説明はなるべく簡潔に、しかしいくつも用意する方がいいし、その説明の作成にあたっては、現場のコミュニティのニーズに応えるかたちで日本エイズ学会の専門知を提供するといった関係の構築もあり得ます。そして、こうした関係が持続できれば、それ自体が互いの理解を深める有意義なキャンペーンになりうるのではないか。そんな期待もできそうです。