2025年11月25日 産経新聞
野生動物の交通事故死「ロードキル」の高速道路上での発生件数が30年前と比べて倍増するなど野生動物が車と衝突する事故が全国で相次いでいる。大半はタヌキや鳥類といった中型動物だが、東北地方では今年、生活圏に出没したクマとの衝突事故が続発、秋田県では前年の5倍以上となっており、関係者が注意を呼び掛けている。
シカの飛び出しに注意を呼びかける標識=奈良市(株式会社 産経デジタル)
関西の観光地の1つで、国内外からの観光客が集まる奈良市の奈良公園。周辺に生息する「奈良のシカ」も野生動物の一種だ。シカが道路を横断することも日常で、シカの飛び出しを注意喚起する標識がいたるところに並ぶ。
保護団体「奈良の鹿愛護会」によると、令和6年7月からの1年間で、奈良公園内で発生したシカとの交通事故は前年同期比8件増の72件。死亡頭数は同7頭増の36頭だった。愛護会は、事故にあったあとに逃走するシカもいるため、実際に発生している件数はさらに多いと指摘する。
国交省によると、令和4年の高速道路でのロードキルの件数は約5万件でここ数年は横ばいだが、平成6年の2万件超と比べると30年で倍増。国交省の研究所の以前の調査では、高速道路が野生動物の数が多い地域を通過していることや、動物の生息環境の拡大などを理由に挙げている。
一方で、野生動物と衝突した際、加入する保険内容次第で車の修理費が補償の対象にならないケースもあり、注意が必要だ。
自動車保険には強制の「自賠責保険」と任意の「自動車保険」の2種類あるが、日本損害保険協会によると、野生動物との衝突は単独の物損事故として扱われ、人身事故の被害者救済を目的とした自賠責保険の対象外となる。動物を避けるために歩行者や対向車などと事故を起こした場合でも、任意の賠償保険を適用することとなる。
車両保険をつけていない契約内容では、車の修理費は補償の対象外となることもあり、同協会の担当者は「野生動物との事故は、ドライバーに過失がない場合が多い。野生動物出没の情報などをきっかけに、保険の見直しも検討してほしい」と呼び掛けている。
そもそもの運転時の注意も必要だ。国交省の担当者は「動物との事故は交通量が少なく、周囲が見えづらい、夜間や朝方の時間帯に発生しやすい。ロードキルを発見した時や、動物と衝突した時には、道路管理者などに適切に通報してほしい」としている。(堀口明里)
