2025年9月27日 FRaU
「ここ10年で猫を取り巻く環境は大きく変わった」
保護猫の取材に行くと、動物愛護活動をされている方からこんな言葉をよく聞く。「保護猫」という言葉が広がり、「ペットショップからではなく保護された猫を」という意識も確実に広がりをみせている。外で暮らす猫に関しても、保護団体と地域が連携し、守る体制を実行しているケースも増えている。
個体数が減少傾向にあるマヌルネコ。photo/iStock(現代ビジネス)
【写真】こんなにいろんな種類が!野生のネコ科動物のかわいい姿
しかし、「ネコ科」というカテゴリーでみると状況はかなり厳しい。ネコ科の野生動物の多くが、絶滅の危機に瀕しているという。動物園などでもお馴染みのユキヒョウやウンピョウ、ライオン、イリオモテヤマネコ……などは絶滅危惧種として保護が急がれている。まん丸ボディと独特な表情でファンが多いマヌルネコも現時点では絶滅危惧種ではないが個体数減少傾向が懸念されているという。
想像以上に厳しい状況にあるネコ科の野生動物の現状について、WWFジャパンに話を聞いた。
75%のネコ科動物が危機的状況に!
現在、地球上には39種のネコ科の野生動物が確認されている。その中で絶滅危惧種は19種、近危急種5種、絶滅危惧種ではないが個体数が減少傾向にある種類を含めると危機状況にあるネコ科動物はなんと75%(※1)にもなるという。
北米から南米のチリにかけて生息するピューマも減少している。photo/iStock(現代ビジネス)
これは、他の肉食目のイヌ科やイタチ科と比べても、危機的度合は圧倒的に高い(イヌ科の場合:絶滅危惧種5種・近危急種6種で合計29%、イタチ科の場合:絶滅危惧種14種・近危急種7種で合計33%)。
※1:国際自然保護連合(IUCN)の レッドリストのカテゴリーでCR、EN、VUに分類される絶滅危惧種19種と、絶滅危惧種ではないが個体数が減少傾向にある10種を含めた割合。
人気のあのネコ科動物も……!
具体的に絶滅危惧種、絶滅危惧種ではないが個体数が減少傾向にあるネコ科動物たちのリストを見るとよく知っているネコたちの名前がある。動物園などで人気を集める種類やアニメなどで話題になった種類の名前も挙がっている。
【絶滅危惧種(絶滅の恐れがある)のネコ科動物】
高速の脚を持つチーター。生息地の環境破壊や密猟などで絶滅の危機にある。photo/iStock(現代ビジネス)
【絶滅危惧種ではないが個体数が減少傾向のネコ科動物】
ジャガー、ジャガランティ、オセロット、マーゲイ、ピューマ、マーブルキャット、ジャングルキャット、マルヌネコ
他にも、絶滅の恐れは現在起きていないが、外見のかわいらしさから乱獲の危険などが懸念されているのが、「砂漠の天使」の別名を持つスナネコだ。ブームになればペットにしたい人が増え、乱獲されてしまう。そうならないように、専門家たちはペット化に関して厳しい声を上げ続けているが、残念ながら密輸や繁殖などの噂も上がっている。
環境問題の影響を受けやすいネコ科動物
しかしながら、なぜ他の野生動物に比べて、ネコ科の動物たちは絶滅の危機に瀕しているのだろうか?
「そこには、危機的問題の発生原因が複雑に関係しています。農地や植林地の拡大によって、ネコ科動物たちの生息環境の減少や分断が起きています。ネコ科動物の毛皮・骨・牙などを目的とした密猟も大きな要因です。さらに、生息環境の悪化や獲物となる草食動物の減少などが原因で、ネコ科動物たちが人の居住地に出没するようになり、家畜を襲う害獣として捕殺されるケースも出ています。そして、気候変動(地球温暖化)による生息環境の急激な変化も、ネコ科動物の生存を脅かす原因となっているのです」というのは、WWFジャパン 自然保護室の若尾慶子さんだ。
トラの親子。私たちにお馴染みのネコ科動物たちの生活環境が大きく変わり、生息できなくなってきている。photo/iStock(現代ビジネス)
中でも、環境問題の影響はとても大きい。同じ肉食動物でも、イタチ科の動物などの場合は獲物が捕獲できない場合、木の実などを食べることもあるが、ネコ科の野生動物はほぼ完全な肉食。獲物の確保が生きていくためには必須だ。しかし、生息環境の破壊や温暖化が進めば、獲物の生息環境も変化する。例えば、森林が減少すれば、そこに生きる小動物や草食動物たちも減少する。最終的に、小動物や草食動物を捕食するネコ科動物に影響が及んでしまうのだ。
「野生動物が生きるための植生が豊かな自然が、きちんと残されていることが、大事な条件となります。ネコ科動物の多くが絶滅の危機に瀕している現状は、地球規模の自然環境の劣化を意味しているともいえます。野生ネコたちを守る=その生態系を保全すること、地球全体の環境を守ることでもあるのです」と若尾さんは言う。
野生のネコ科動物たちにこんな苦しい現状があったとは……。ぜひとも現状を知っていただければと思う。そして、必要なのは、温暖化防止を含む環境保全活動の取り組み。ネコ科野生動物の密猟の防除、ペット取引の規制など、私たちはどんなことができるのか。この10年で「保護猫」という言葉を誰もが知るようになったように、野生のネコ科動物の問題も多くの人たちに広まるように、まずは「知ることから」、守ることへとつなげていきたい。