「里親になりたい人」に保護犬猫をすぐ譲渡に出せない理由 | トピックス

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2025年3月27日 現代ビジネス

 

 

令和6年7月に更新された「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(環境省作成)によれば、令和4年度に保健所やセンターなどに収容され、殺処分された犬は2434匹、猫は9472匹。多くの保護活動家や支援団体などの努力で、犬は11711匹、猫は20266匹が譲渡され、また殺処分を行わない自治体も増えていても、不幸な動物はまだ、こんなにもいるのだ。 

 

人も他の動物も大好きな、穏やかなブンちゃんは、猟犬として彷徨っていたところを保護された。写真提供:ワタシニデキルコト(現代ビジネス)

 

迷子でセンターに収容された猟犬ブンちゃんのマイクロチップには飼い主登録はなかった 

 

さらに言えば、保健所や動物愛護センターから引き出された保護犬のすべてが、すぐに新しい家族と暮らせるわけではない。健康に問題のある犬は治療が必要だし、人馴れしていなければ、慣れる時間が必要だ。言葉を持たない動物は、体の傷も心の傷も、原因が特定しづらく、適切な治療が見つからないことも多い。 

 

動物支援団体は、こうした保護犬が人間への信頼を取り戻すための活動や病気の動物の保護など、日々活動を行っている。坂上知枝さんが代表を務める動物支援団体「一般社団法人ワタシニデキルコト」(以下、ワタデキ)も、そのひとつだ。動物たちが二度と不幸な目に遭わないよう、譲渡先の環境や飼い主の適性を見極めながら新たな家庭へと送り出す。

 

ワタデキの保護活動を通して、保護犬・保護猫との出会いと別れを伺う本連載。前編「「骨の標本みたい」餌を与えられてもガリガリだった保護犬ブン太郎、回復までの軌跡」では、動物愛護センターに保護された猟犬、イングリッシュ・ポインターのブンちゃんこと、ブン太郎が、センターできちんと世話されていたにもかかわらず、「骨の標本のように」やせ細ってしまった話をお伝えした。見かねた坂上さんが引き出したところ、幸いにも、愛情深い預かりさんのサポートによって、ブンちゃんはすくすくと回復した。 

 

後編では、預かりさんから里親さん宅に譲渡されたブンちゃんの今と、坂上さんが大切にする「動物の一生を守る」譲渡基準について詳しく紹介する。

なぜすぐに譲渡できないか

現在、坂上さん宅と、ワタデキの預かりさん宅を合わせると、13匹の動物が「里親」との出会いを待っている。「里親になりたい」という問い合わせは、いくつか来ているが、「それではお願いします」とすぐに譲渡できるわけではない。 

 

たとえば、ブンちゃんはイングリッシュ・ポインターで猟犬種。犬種の由来を調べたところ、もともとは鳥猟犬で、獲物を見つけると片足を上げてハンターに教えることから「ポインター」と呼ばれるようになったのだとか。ましてはブンちゃんはまだ若く、元気いっぱいだ。 

 

「リードでの引き散歩だけでなく、自由に走らせたりといった十分な運動が必要。体力があり、犬に時間をかけてあげられる方でないと飼育するのは難しいと思います」(坂上さん、以下同)

 

性格は優しく温和とされているが、人のそばにいるのを好むので、多忙で留守番が多くなるような家庭には難しい。 

 

「時々、『ペット不可物件だけど、ほかの人もみんな飼っているので大丈夫です!』という方がいるのですが、今は大丈夫でも、そもそもペット不可物件なのですから、突然、飼えなくなってしまうことも考えられます。もう二度と捨てられることのないよう、センターでも譲渡条件のひとつにペット飼育可能住居という項目があり、ワタデキも、動物をとても大切にしてくれるだろうという方でも、ペット飼育不可住居の場合は例外なく譲渡をお断りしています。 

 

動物を飼うのは、その仔の一生を背負うということ。命を引き受ける覚悟が必要です。動物は自分で飼い主を選べないので、代わりにその仔にとっていちばん合う家庭を探してあげたいですし、里親さんにとっても無理のない、年齢や体力、ライフスタイルにあった仔とのご縁を繋ぎたいです。それがお互いにとってハッピーだと思うから。そのため、里親希望者の方とは何度もやりとりをし、メンバーや預かりさんと意見交換もしながら、慎重に進めています」

60代で里親になれることも

里親の条件を60歳以下にしているセンターや動物保護団体も多いが、ワタデキでは動物の特性や年齢によっては60歳以上の人にも譲渡を行っている。ブンちゃんの里親夫婦は60代だという。猟犬を飼育する年齢としては決して若くはない。 

 

「若く元気な猟犬と暮らすのは難しいのではないかと心配しましたが、お見合いの時に一緒にお散歩をしてみると、まったく問題なくブンちゃんと歩けていました。散歩ルートには小さな山や広い芝生の広場もあり、十分な運動環境もあります。ブンちゃんのために庭にドッグランも作ってくれました。また、万が一の時には息子さん家族が引き受けてくれることになり、晴れて譲渡となりました。 

 

ドッグトレーナーを付けて、今では犬笛で完璧な呼び戻しもできるようになったそうです。また、最初の頃は寝ている時に、里親さんが横を通るとすぐに目を覚ましていたのに、今ではぐっすり寝入って起きないのだとか」 

 

実はつい最近、坂上さんはブンちゃんと再会を果たした。 

 

「ブンちゃんの里親さんはブンちゃんに対して自信がでてきたように見えました。もうすっかり家族です。いちばん感動したのは犬笛! 広場で興奮している状態でも、お父さんの犬笛にすぐに反応して飛んできたのには本当にびっくりしました。 

 

里親さんのお家は、ブンちゃんの居心地がいいようにと、さらにDIYされていました。また、ブンちゃんの『ハウス』と呼ばれるソファがあり、当たり前のようにそこで寛いでいます。入ってはいけない部屋の前では足を止めるなど、家庭のルールをちゃんと守っているのもうれしくて、誇らしくて。 

 

ブンちゃんの体重は、23kgだそう! 健やかに穏やかに育っているのは、里親さん宅のすばらしい環境のおかげだと思います」

 

やさしい里親さん宅で元気に過ごすブンちゃんのように、行き場をなくした動物を、あたたかな家族に繋ぎ、幸せにしたい。そんな思いで、坂上さんたちは日々活動を続けている。

 

長谷川 あや、坂上 知枝