2025年2月15日 ABEMA TIMES
今年に入り、動物虐待のニュースが相次いでいる。先月、広島県・竹原市の「ウサギの島」として知られる大久野島で、ウサギ2匹を足で蹴って死なせた25歳の男が逮捕された。また11日には、別のウサギをハサミで傷つけたとして再逮捕。男は容疑を認めているという。また6日には川崎市に済む49歳の男が、捕まえたハトをハサミなどを使って殺したとして逮捕。男はSNSに、ケージに入ったハトなどを虐待したり、頭部を切断する動画を投稿していた。
動物愛護、厳罰化は?(ABEMA TIMES)
現在の動物愛護法は2019年に改正されたもので、動物を殺傷した場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金と、改正前(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)と比べれば厳罰化が進んだといえるが、それでもまだ「動物殺しても最高が懲役5年なんて、軽すぎる」「動物の次は人間にエスカレートする。今の法律は生ぬるい」という声がSNS上でも見られている。「ABEMA Prime」では、動物愛護法改正時のプロジェクトのアドバイザーを務めた専門家などを招き、厳罰化の必要性について考えた。
■動物愛護法は2012年、2019年と2度改正
動物愛護法は2012年にも改正(施行は2013年)されている。この時は、愛護動物を殺傷した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金だったところが、それぞれ2倍の2年以下・200万円以下へと引き上げられた。そこからさらに7年後の2019年、現在施行されている5年以下・500万円以下に。2013年からの12年で見れば、1年以下・100万円以下から5倍の重さになっている。動物虐待の罰則強化に取り組む、公明党代表代行・竹谷とし子参議院議員は「5年前の改正の時も罰則を厳罰化するということでやってきたが、それも必要だし、兆候が見えた時に通報しやすい体制作りも並行して必要だと思っている」と述べた。
動物愛護法の改正(ABEMA TIMES)
罰則は強化されたものの、動物虐待事件の検挙件数は法改正後の方が増えており、2014年が48件なのに対し、施行された2020年から急増、2023年は181件を数えた。弁護士・島昭宏氏は「動物への関心が高まってきたり、虐待というものに対して嫌悪感が高まってきた。それから法定刑が高くなって、警察もその犯罪に対する意識が変わってきたことがあって増えているというのはあると思う。虐待というもの自体が本当に増えているかというと、この検挙数とは別の問題」と説明した。
かつて動物は“モノ”として扱われ、法定刑についても器物損壊として比べられるような時代もあった。島氏は「2012年の改正で、上限が1年から2年と倍になった。それが2019年に2年が5年になった。2回連続で厳罰化されて、しかも2.5倍というのは極めて特殊な例だ。それだけ国民の意識が高まって、法定刑を上げてもいいなという状況になってきたということの一つの表れであることは間違いない」と、現状を前向きに捉えた。
一方で、海外であれば実刑で10年を超えるようなケースもあり、まだ日本では実刑になるケースもほとんどないと言われる。島氏は「警察から見ても(懲役)3年にならなければ『執行猶予になる事案だな』と最初から思っていて、極めて軽い犯罪という扱いがあった。それが5年になることで、れっきとした犯罪という言い方はおかしいかもしれないが、ちゃんと扱わなくてはいけない犯罪なんだというところに、ようやく立った。警察の意識もこれを機に変わっていきつつある。器物損壊罪よりも高くなったのだから、モノではない何か、尊重するべき何かになったなということは、数字に表れている。これは国民の意識がどんどん変わっていくまだ過程だ。それはやむを得ないところはあるし、それをいかにもっとスピード感を上げるかという話だ」と述べた。
■人と動物が共生することの意味合いは
人と動物の関係は、実に複雑だ。一般的にペットと呼ばれる愛玩動物もいれば、動物園などで飼育される動物、研究用の実験動物、食肉などにするために飼育される畜産動物などもいる。実験動物、畜産動物については、最終的には人の手で殺すことになるだけに、動物愛護法とも切り分けながら考える必要が出てくる。島氏は「ペットと動物園の動物に関しては、動物愛護法でも『終生飼養』が努力義務になっている。実験動物、畜産動物に関しては、申し訳ないけど人間が利用させてもらうので、どこかの段階で死んでもらっている。動物愛護という言葉が何度も出てきたが、これからは『動物福祉』という言葉が大事だ。人間が利用することはやむを得ない。利用するにあたって、どういう基準で線引きをするのかも必要だが、仮に最小限(殺すことは)やむを得ないという時に、そこまではせめて幸せに暮らしてもらおうというところが、一歩進んだ動物福祉の考え方だ」と語った。
動物愛護法の目的とは(ABEMA TIMES)
保護犬をペットとして飼っている作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、人間の死と動物の死を比べた。「人間相手だって、過失致死か故殺かは明確に分かれるわけではなくて、その時々の状況によって全然違う。警察取材をしていれば分かるが、そこはものすごく微妙な判断。警察が殺人で立件するのか、傷害致死になるのか、それとも偶然の過失致死なのか。そこを動物だからといって、くっきり分けるのは到底無理だ。そもそも動物を大事にするという倫理の問題もグラデーションが大きい。僕の知り合いの牛を飼っている農家だと、肉牛なので最終的には殺すけれど、ちゃんと名前をつける。名前をつけて大事に育てて、最後悲しくお別れするという段取りになっている。それは決して食べるのだから適当に扱えばいいという発想には全くならない。農家としてはすごく愛している。愛しているけど食べるという、なんとも言えない倫理と人間の原罪の狭間みたいなところで農家は生きている。そういう狭間の淡いがあるというのを我々は動物に対してもっと認識すべきじゃないか」。
動物との共生権を訴える島氏は、法律にする上ではやはり人間の法益がポイントになると語った。「犯罪というのは保護法益が大事だ。法益を守るために罰則を作る。殺人であれば人の生命を守るため。窃盗であれば財物に対する占有を守るために窃盗罪がある。今、動物虐待関係の犯罪というのは何が保護法益かというと、動物愛護の気風という良俗を守るためになっている。だけど良俗を守るために厳罰化というのはものすごく曖昧。動物の権利というのも、極めてハードルが高い。そう考えると、動物愛護法というのは第一条に目的が、人と動物が共生する社会の実現を図ると書いてある。つまり人と動物が共生する社会が、人にとっての利益だと捉えることができる。伴侶動物、動物園動物、畜産動物、実験動物、さらに言えば野生動物。そういった動物と人が共生する社会はどんな社会なのかということを一つひとつ緻密に議論していかなきゃいけないと思う」。
(『ABEMA Prime』より)