2024年12月26日 朝日新聞デジタル
山口県周南市の野犬対策が奏功しつつある。県や県警、動物愛護団体と協力し、野犬の捕獲と飼い主への譲渡を進めた結果、捕獲数は激減した。ただ、「野犬のまち」との汚名返上に向けて課題も残る。市は新たな一手を検討している。
周南緑地公園に出没する野犬=2023年12月19日午前9時51分、山口県周南市徳山、三沢敦撮影
周南市の市街地に広がる周南緑地。東京ドーム17個分の公園には草が生い茂り、木の実や小動物といった野犬のエサが豊富だ。野犬にとって格好のすみかとなった緑地では、住民がかまれたり、追いかけられたりする被害が後を絶たなかった。
近年、そんな野犬の姿が減りつつあるという。
市環境政策課によると、県周南環境保健所が市内で捕獲した野犬の数は、2019年度の841頭から減少傾向に転じた。23年度には284頭まで減り、今年度は10月末現在で98頭にとどまっている。「野犬が減ったことは間違いないでしょう」。市の担当者は手応えを口にする。
周南市が野犬対策に本腰を入れ始めたのは、5年前のこと。市長選で野犬対策の強化を公約に掲げた藤井律子氏が初当選すると、県と県警、市の3者による連絡協議会を立ち上げた。
市内に捕獲用のおりや監視カメラを増設し、野犬パトロールを強化した。野犬の目撃情報を共有し、捕獲や注意喚起につなげる市民向け通報アプリの配信も始まった。
周南緑地に設置されている大型の捕獲おり。監視カメラを取り付け、遠隔操作で扉を閉める=県生活衛生課提供
野犬対策に効果を発揮したと市がみるのが、県が22年度に導入した「遠隔捕獲システム」。捕獲おりに取り付けた監視カメラの映像をスマホで見ながら、遠隔操作で出入り口を塞ぐ仕組みだ。
野犬がエサに触れない限り、おりの扉が閉じない従来型とは異なり、新システムはエサに触れなくても、映像を見ながら、扉を閉められる。
野犬のなかでも、警戒心が強く、ワナに近づこうとしない成犬を確実に捕らえられるようになったという。
効果は数字に表れている。周南市内の成犬の捕獲数はシステムを導入した22年度に21年度の倍近い143頭にのぼった。成犬は緑地で子犬を繁殖させてきた。「繁殖源」が少なくなることで、県生活衛生課は「野犬の繁殖が抑制され、子犬の数も減っている」とみる。
野犬の捕獲頭数の推移(山口県などの調べ)
捕獲時にけがをする恐れが高い成犬がそばにいなければ、素手で子犬を捕まえられ、巣穴の撤去も容易になったという。
数年前には、インターネットで周南市を検索すると、関連して「野犬」が検索語の最初に表示されることもあったという「野犬のまち」周南市。
汚名返上は道半ばとばかりに、市の担当者は言う。
「『野犬が減った』という市民の声がある半面、目撃情報やエサがまかれていたという通報もある。対策の成果は表れているが、安心はできない」
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野犬対策の強化と合わせ、周南市は動物愛護団体との連携・支援に力を入れている。
周南緑地にある市の立て札。条例でむやみなエサやりを禁じている=2023年12月22日午後0時46分、山口県周南市徳山、三沢敦撮影
周南緑地公園に出没する野犬=2023年12月19日午前10時7分、山口県周南市徳山、三沢敦撮影
周南緑地公園に出没する野犬=2023年12月19日午前10時6分、山口県周南市徳山、三沢敦撮影
周南緑地公園に出没する野犬=2023年12月19日午前9時52分、山口県周南市徳山、三沢敦撮影
県が捕獲した野犬は引き取り手がいなければ殺処分されるため、市内の団体などが一時的に保護する。しつけなどを済ませた上で、飼い主を探す活動に取り組んでいる。
譲渡先がみつかるまでのむやみな繁殖を防ぐため、団体の多くは自費で不妊去勢手術を野犬に行っている。そこで、市は6月から、県獣医師会徳山支部に所属する12の動物病院で行う不妊手術1回につき、1万円を補助する事業を始めた。
しかし、市は12月議会で利用実績がないことを明らかにした。藤井市長は「手術費がより安い指定外の病院を利用していることが要因」と答弁。利用を促すため、補助額の引き上げや指定病院の拡大を検討する考えだ。