密売業者から野生動物を守るため、赤いベストを着たあの大きなネズミが立ち上がった! | トピックス

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2024年11月11日 カラパイヤ

 

image credit:APOPO

 

 こっそり持ち込まれる麻薬を嗅ぎ分ける麻薬犬はよく知られているが、ネズミだって負けていない。

 

 そのネズミとは、カンボジアなどの戦地で地雷や不発弾を大量に発見し、大勢の人々の命を救った功績をもつアフリカオニネズミである。

 

 現在アフリカオニネズミは、その鋭い嗅覚、敏捷性を活かして、密輸された絶滅危惧種生物のにおいを嗅ぎ分け、密輸を阻止する対策に役立つよう訓練を受けている。野生動物を救うヒーローとなるのだ。

アフリカオニネズミとは?

 アフリカやマダガスカルに生息するアフリカオニネズミは、ネズミといってもその辺にいるネズミとはちょっと違う。一番違うのはそのサイズ感で、体長25~45cm、体重1~1.5kg。

 

 優れた嗅覚をもち、体重が軽く地雷に触れても爆発する可能性が少ないため、地雷や不発弾の検知・除去で活躍してきた。

 

 さらに、人間の喀痰から結核菌を検出する能力もあるため、医療現場での実績もある。

 

 タンザニアに拠点を置くNPO団体「APOPO」は、アフリカオニネズミの訓練を行っており、厳しい訓練を乗り越え、基準に合格したネズミたちはヒーローラッツと呼ばれている。

 

厳しい訓練を受け、人間を守るための様々な活動を行ってきた赤いベストを着たアフリカオニネズミ  image credit:APOPO

新たな任務は密輸された野生生物を嗅ぎ当てること

 そして新たに、ヒーローラッツたちが行っている訓練は、密輸された野生生物を嗅覚を使って探し当てることだ。

 

 野生生物の違法な取引は、数十億規模の富を生み出す巨大産業になっているが、種を絶滅に追い込み、生態系を脅かし、人身売買や武器密輸などほかの犯罪も助長する。

 

 闇でもっとも頻繁に取引されているのは、センザンコウ、ゾウ、サイの密輸品だ。こうした闇市場と戦うのは容易なことではない。

 

 密輸業者はなんとか隠して持ち込もうとあの手この手を使ってくるため、検出自体が難しいのだ。

デューク大学助教授のケート・ウェッブ氏はこう語る。

密輸業者は、違法な密輸品を隠すために常に新たな手を考え出します。強いにおいのするものの中に隠したり、X線やCTスキャンをかいくぐるための悪知恵を働かせます

 これまでの検出方法ではどうしても限界があり、コストもかかり効果的とは言えない。そこで嗅覚探知動物に白羽の矢がたった。

訓練されたネズミたちは、146の非標的物質の中から密輸された野生生物4種を識別することができる image credit:APOPO

訓練の結果、野生生物の密輸品を嗅ぎ分けることに成功

 APOPOが何ヶ月も訓練した結果、11匹のオニネズミが絶滅が危惧される密輸品4種、センザンコウの鱗、サイの角、象牙、アフリカンブラックウッドのにおいを嗅ぎ分けられるようになった。

 

 しかもほかの物質でカモフラージュされていても、ちゃんと識別することができた。

アフリカオニネズミの最大の利点は、比較的短い期間で訓練できること、トレーナーが変わっても協力できる柔軟性、コスト効率の良さ、そして犬にはアクセスできない狭い場所にも入って行くことができる機動力です

1匹の訓練にかかるコストは7000~8000ドル(100~120万円)で、これまでの訓練期間はおよそ9ヶ月高額なX線やCTスキャナーに比べて、かなりコスパがいい

犬は同じでトレーナー(ハンドラー)をつけて訓練しなくてはなりませんが、このネズミはトレーナーが変わっても影響はありません(ウェッブ氏)

 このヒーローラッツたちには、デヴィッド・アッテンボロー、スティーブ・アーウィン、ダイアン・フォッシーなど自然保護活動家にちなんだ名前がつけられている。

 

人間のみならず、野生生物を救う事になったヒーローラッツ、アフリカオニネズミ image credit:APOPO

ネズミたちの訓練方法

 まずは、ネズミたちにセンザンコウの鱗などのにおいを覚えさせ、それをしっかり識別できたら報酬をもらえるよう訓練した。

 

 クリアできると、対象物をコーヒー豆などにおいの強いものの中に入れて、それでも識別できるようレベルを上げた。

 

 ほかのネズミのにおいや、ピーナッツなどのおいしそうな食べ物のにおいなど、およそ150の非標的物にネズミを晒し、高度なこのテストをクリアしたのがこの11匹の精鋭たちというわけだ。

 

訓練後、おいしいペレットをご褒美にもらうアフリカオニネズミ  image credit:APOPO

実用化に向け、ネズミたちは応用力を身に着けている最中

 訓練されたネズミたちは、実際の現場での応用に向けてさらなる磨きをかけている。

 

 タンザニアの国際貿易品の90%以上が通過するダルエスサラーム港では、APOPOがタンザニアの野生生物管理局(TAWA)と協力して試験を実施している。

 

 シンガポールやフランスの港からも関心が寄せられているという。

 

 次のステップとしては、ネズミにビーパー(ポケベルのような装置)を装着させて、密輸品を感知したら、それを作動させて人間に知らせるようにする訓練だ。

 

 多様な環境にネズミを配置してこの任務をさせるには、追加の訓練や試験が必要だ。彼らはあらゆる騒音やおびただしい種類のにおいなどに対処しつつ、対象物を検知しなくてはならない。

 

 だが、密輸問題の重大性を考えれば、可能性がありそうなことはやってみなくてはならない。野生生物の違法な取引と戦い、密輸業者に断固とした態度を示すためにも、革新的な方法を開発していくことは必要なことだ。

 

 ネズミたちのこの仕事は、違法密輸品の検知だが、人身売買、麻薬や武器の密輸などその他の犯罪にも応用できる可能性も秘めているという。

 

 2022年、8歳で永眠したヒーローラッツ、「マガワ」は、生前にAPOPOの訓練により、100を超える地雷や爆発物を発見した。その功績が称えられ、2020年にはネズミとしては初となる金メダルをイギリスの慈善動物団体から授与された。

 

 犬は人間を救うヒーローで、その活躍が目立つが、種によってはネズミだって訓練次第で、我々を救ってくれるヒーローになるのだ。

 

References: Giant rats could soon fight illegal wildlife | EurekAlert! / The unlikely heroes trained to sniff out wildlife trafficking