2024年8月5日 読売新聞オンライン
府獣医師会「大阪VMAT」副隊長 大下勲さん 58
府獣医師会の「大阪VMAT」は、大規模災害時に動物の支援にあたる専門のチームです。堺市北区で動物病院を営みながら、大阪VMAT副隊長を務める獣医師の大下勲さん(58)は、被災地支援にあたった経験を踏まえて、動物と人の防災の備えを呼びかけています。
VMATとは、Veterinary Medical Assistance Team(獣医療支援チーム)の略です。府獣医師会は、飼育崩壊の現場から犬などを救護する活動を土台に、2017年、災害対応を担う「大阪VMAT」を設立しました。福岡、群馬に次ぐ全国3番目の設立でした。
現在、獣医師と愛玩動物看護師の計約60人が所属。災害時のペットの受け入れなどを行えるよう、定期的に研修をしています。平時の活動で力を入れるのが、飼い主とペットの「同行避難」と「適正飼育」についての啓発です。
環境省は13年、東日本大震災での対応を踏まえ、飼い主とペットの災害対策指針を公表し、その中で同行避難が基本であると位置付けました。ペットを飼っていない人には理解しがたいかもしれませんが、飼い主がペットを置いていけず、避難をあきらめることがないようにすることが、同行避難の趣旨です。でも、各地の避難訓練などに参加していると、その考えはまだまだ広まっていないと感じます。
飼い主には避難所で受け入れてもらうために、日頃から地域に溶け込む努力が求められると思います。
例えば、公園でどこかの犬のフンが片付けられないままだと、誰かが踏んでしまい、その人から「犬は嫌だ」と思われてしまう。だから、自分の犬のフンは必ず持ち帰るようにしてほしいのです。
最近は近所づきあいが減った地域も多いけれど、犬の散歩の途中で意識して立ち話をして、犬の性格を知ってもらうと、災害時にも「あの犬なら大丈夫」と避難所への受け入れにつながります。細かな行動を積み重ねることで、コミュニティーに居場所を作ってもらいたいのです。
避難所に長く滞在しなくて済む備えをしておくことも大切です。特に猫は環境の変化に敏感なので、在宅避難が基本のマンションの場合は、災害時も過ごせる環境を整えることを勧めます。大きめの車を保有して車中避難に備えておくことも一つの考え方です。
1月の能登半島地震では、石川県獣医師会が無償でペットを預かりました。府内でも、飼い主が被災して飼育が難しい場合に、動物病院でペットを受け入れるネットワークづくりに取り組んでいます。事前に登録する「災害時動物救護協力病院」で、発災後にインターネットで被災状況やペットの受け入れ状況を入力してもらい、素早い受け入れにつなげるシステムを構築しました。人間には全国にそうした登録システムがあり、動物にも作りたいと考えたのです。
私は獣医師会の一員として、能登半島地震や東日本大震災、熊本地震の被災地で、地元の獣医師会が災害対策本部を設置するための後方支援や現地調査などを行ってきました。日本防災士会など、ペット関係以外の団体にも加わり、「災害時のペット支援は、被災者への支援」という考えで、ネットワーク作りや講演活動に取り組んでいます。
大阪VMATの発足後、府内で我々の支援が必要な災害はありませんでしたが、これまでの経験を生かし、大規模災害時にしっかりと対応できるように備えたいと思います。(聞き手・梨木美花)
◆堺市北区出身。祖父は同市で酪農を営み、小さい頃から犬や猫、鳥などに囲まれて育った。自然と動物に関わる仕事を志し、麻布大学獣医学部獣医学科を卒業後、米国や三重県などの病院で経験を積み、1997年に堺市で大下動物病院を開いた。