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2024年5月21日 読売新聞オンライン

 

 「離ればなれに引き取られた保護犬のきょうだいが、飼い主の努力で再会を果たしているらしい」。そう聞いて記者は4月20日、松山市内の公園に向かった。

 

 公園には、顔や背中の模様がよく似た6匹の犬が集まっていた。「兄弟だろう?会」という。正確には全員がきょうだいではないが、同じ群れで生まれた可能性があるらしい。

 

 

 人や他の動物になれにくい保護犬が憩う場として、3年ほど前から不定期で開催されている。発起人は飼い主の一人、松山市の佐藤博行さん(60)。雑種の 伝翼でんすけ (推定4歳)を飼っている。

 

 伝翼とは2020年6月、市内のペットショップで出会った。店員の話では、野犬の群れから保護された6匹のうちの1匹という。「生まれて間もないのに母親、きょうだいと離ればなれになり、見知らぬ場所にいる。境遇を思うと胸が苦しくなった」。妻と相談し、連れて帰ることにした。

 

 当初は名前を呼んでも来ず、佐藤さんが近づいても逃げるそぶりを見せた。外に出るのも怖がり、散歩に出ようとしなかった。 不憫ふびん で「せめて、きょうだいに会わせてやりたい」と思ったのが会のきっかけだ。

 

 佐藤さんはまず、ペットショップにきょうだいのことを尋ねてみた。「アポロ」と名付けられ、日頃の様子がインスタグラムで投稿されている犬がいると聞いた。検索欄に「アポロ」と打ち込んでみると、しばらくして飼い主が見つかった。

 

 シベリアンハスキーに似たシルバーがかった背中の模様に、大きな目。アポロは伝翼にそっくりだった。飼い主に連絡し、同年9月、自宅の庭で初対面した。最初はおそるおそるだったが、じゃれ合ったり、追いかけっこしたり。はしゃぐ2匹の姿に安心し、持っていたリードを手放した。

 

 アポロの飼い主、松山市の大橋祐子さん(46)は「アポロも人見知りな性格なのに。お互いに何か特別に感じるものがあったのでしょうね」と振り返る。

 

 佐藤さんはあと4匹も捜そうと、今もSNSで発信を続ける。他のきょうだいはまだ見つかっていないが、特徴や生い立ちが似た保護犬4匹と出会えた。

 

 4匹のうち3匹を保護したのは、西条市の動物愛護団体「犬猫ライフ西条」の越智美智子代表(50)。20年頃、同市の住宅街近くでは野犬が繁殖し、エサを与える人もいた。住民から「かみつかれないか不安だ」という声が上がり、越智さんが引き取った。

 

 9回目となった4月の「兄弟だろう?会」には越智さんが初めて参加した。「立派に成長した姿を見て泣きそうになった。大事にしてくれた飼い主への感謝があふれ、活動を続けてよかったと思えた」としみじみ語った。佐藤さんは「交流会を通じて伝翼は人慣れし始め、散歩にも出られるようになった」と喜ぶ。

 

 子犬の頃の伝翼のように、野犬で人と接した経験がないと、人に対して警戒心を抱きやすい。そんな保護犬は珍しくないそうだ。

 

 環境省によると、22年度に動物愛護センターなどに引き取られた犬は全国で2万2392匹。そのうち所有者不明は1万9816匹と全体の88・5%を占めた。譲渡に向かないと判断されて殺処分されるケースもあり、同年度は2434匹が対象になった。

 

 佐藤さんは「伝翼のおかげで交友が広がった」ともいう。中には世話が大変な犬もいるが、ペットを思いやり続ければ、予想外の喜びが待っているかもしれない。(丹下巨樹)