2024年5月7日 読売新聞オンライン
希少動物の精子や卵子といった配偶子を凍結保存する「配偶子バンク」を動物園などに整備する動きが本格化している。絶滅の恐れのある飼育動物の繁殖につなげる狙いがある。これまでにバンクを設置したのは全国の9施設。大阪市の天王寺動物園も昨年から準備を進めており、山口県の施設とともに配偶子の採取も可能な西日本の拠点として期待される。(浅野榛菜、北島美穂)
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担当する同園動物課の木村嘉孝さん(48)は「敷地が狭く、多くの個体を飼育するのは難しいが、バンクがあれば希少種の保全に貢献できる」と話す。
配偶子バンクは、生きた状態や死んだ後の動物の精巣や卵巣から配偶子を取り出して容器などに入れ、液体窒素タンク内で保存する仕組みだ。理論上、半永久的に保存が可能という。
JAZAは、全国の動物園や水族館計約140施設が加盟。希少種の精子や卵子を保存して人工授精の研究に活用し、繁殖につなげることを目指している。
「時間との勝負」
この呼びかけに応じたのがときわ動物園と天王寺動物園だ。天王寺動物園は昨年11月にバンクの導入を決め、今年中に保存を開始するため、備品購入などの準備を進めている。将来的には採取にも乗り出す計画だ。同園の獣医師、小川由華さん(35)は「動物がいるうちに、配偶子を残すことが重要だ」と強調する。
動物の繁殖に詳しい岐阜大の楠田哲士教授は「配偶子の採取は時間との勝負。西日本に対応可能な施設が増えれば、人工授精の成功率向上につながるはずだ」と期待を口にする。
危機感
各地の動物園などに設けられたバンクでは、絶滅危惧種のアムールトラやチンパンジー、スマトラトラなど約120種の配偶子を保存している。
バンクの整備が進む背景には希少種が姿を消すかもしれないとの危機感がある。野生動物の国際取引を規制するワシントン条約が1973年に採択され、日本も80年に批准した。感染症の拡大を防ぐ目的に加え、近年は動物を快適な環境で飼育する「動物福祉」の観点からも動物の輸入は難しくなっている。
JAZAはバンクの普及に向け、液体窒素タンク(20リットル)の補充費用(約1万円)を施設に全額補助しており、配偶子の採取・保存に必要な知識を学ぶ講習会の開催も検討している。
JAZA生物多様性委員会の堀秀正さんは「加盟施設の中でも配偶子保存の重要性の受け止めにはずれがある。希少種を残すには、各施設が共通認識を持つことが大切だ」と話している。