2023年6月23日 読売新聞オンライン
石巻市内でシカやタヌキなどの野生動物が犠牲になる交通事故が2020年度から3年間で3395件発生していることが、石巻専修大・辻大和准教授(45)(動物生態学)の研究室の調査で分かった。
このうち重大な人身事故につながりかねないシカとの接触は255件あり、牡鹿半島西部に集中していた。研究室では今年度から市と連携し、多発地点の見通しの良さや地形、シカの生息密度などを詳しく分析して事故防止に役立てる考えだ。(高倉正樹)
人口減に伴い全国で動物の生息域が広がり、人とのあつれきが問題になっている。交通事故を減らす方策を探るため、辻准教授は道路を管理する国土交通省と県、石巻市の協力を得て発生日や場所などのデータを集め、傾向を調べた。
その結果、車にひかれる事故は1日平均3・1件起きていた。突出していたのはタヌキ(1121件)と猫(1046件)。タヌキは市西部を走る三陸自動車道、猫は中心市街地で特に多かった。
タヌキは年に2度、繁殖期の春と子どもが親離れする秋に急増するなど、動物たちの生態と密接に結びついていることも分かった。ハクビシン(150件)やキツネ(69件)、イタチ(59件)、カラスなどの鳥類も多数確認された。
また、シカとの事故を地図に落としたところ、石巻市沢田、侍浜、給分浜、 十八成 浜、鮎川浜の5か所が多発地点だった。このうち4か所は牡鹿半島の西側を縦断する県道2号線(石巻鮎川線)で、季節に関係なく一年中発生していた。
研究室では4月から半島の県道沿い20か所に自動撮影カメラを設置し、シカの生息実態の把握を進める。辻准教授は「多発地点はカーブが多いのか、シカが好んで食べる植物があるかなど、事故を招く要因をさらに調べたい」と語る。
シカによる経済損失は大きく、市ニホンジカ対策室は21年度の被害額が車両修理代だけで2000万円を超すと推計している。被害抑制のため年2000頭前後を捕獲しており、「研究成果から何かヒントを得られれば」と同室の担当者は期待を込める。
シカ以外の野生動物については、道路への侵入防止柵や動物用の橋を設置する例もあるが、費用がかかることから動きは鈍い。辻准教授は「何より大事なのはドライバーがゆとりを持って運転すること。ちょっとしたハンドルさばきで身近な動物の命を救えることに気づいてほしい」と強調する。そのうえで、タヌキの繁殖期に合わせて電光掲示板で注意喚起したり、路上に「バンプ」と呼ばれる突起物を設けて減速を促したりするなどの具体策を提言している。
辻准教授は7月13日に同大で開かれる市民向けの開放講座で、最新の研究成果を発表する。無料。申し込みは同大のホームページから。問い合わせは同大事務課(0225・22・7716)。