2023年5月31日 読売新聞オンライン
入園無料で、動物を間近に観察できる「江戸川区自然動物園」(同区北葛西)が今月5日、開園から40周年を迎えた。ライオンやキリンのような派手な動物はいないが、「人と動物のふれ合い」を大切にして、多くの人に愛されてきた。コロナ禍では、そのふれ合いも制限されたが、6月からは徐々に通常運用に戻していく見通しで、職員らは「これからも動物と人間をつないでいきたい」と意気込んでいる。(増田知基)
■手探りの開園
同園は区立 行船 公園内にあったプールの跡地を使い、1983年5月5日(こどもの日)にオープンした。東京メトロ東西線の西葛西駅から徒歩15分程度。哺乳類や 爬虫 類、魚類など58種610点をそろえ、ペンギンやプレーリードッグなどが間近で見られるのが特色だ。
開園時から勤める職員の長坂拓也さん(58)は「区営で本格的な動物園を作るのは珍しかった」と40年前を振り返る。「上野動物園があるのに」。そんな否定的な意見もあったが、完成すると地域密着型の動物園として親子連れなどでごった返したという。
当時、公園内ではホタルの養殖が行われていたが、動物の飼育は手探り。ペンギンやクジャクなどの動物は開園直前に来たといい、長坂さんは「職員も扱いに慣れておらず、ドタバタの日々だった」と苦笑する。
■オオアリクイ
89年にオーストラリアからワラビーが寄贈され、93年には全面改修で園の面積が当初の2倍に。夏の暑さを前に見せる「ヒツジの毛刈りショー」や、動物カメラマンによる写真講座など、子どもやファンの期待に応えた催しも充実させた。
注目の動物は、2010年から飼育している絶滅危惧種のオオアリクイ。国内では20頭に満たず、都内ではここだけしかいない。昨年11月、同園で初となる赤ちゃん「アモ」(メス)が誕生した。10年からいるアニモ(オス、14歳)と、17年来園のアイチ(メス、10歳)との間に生まれた念願の第1子だ。
オオアリクイの子どもは生後しばらく母親の背中に乗って過ごす習性があり、アイチにしがみつくアモの姿が話題を呼んでいる。飼育担当の前田亮輔さん(31)は「派手さはないけど、つぶらな瞳がかわいらしい。名前は知っていても見たことがない人もいるので、絶滅危惧種のことを考えるきっかけになれば」と話す。
■ふれ合い再開
コロナ禍で20、21年度の来園者は以前の半数程度となる30万人を下回ったが、最近は平日も保育園児らであふれ、従来の姿を取り戻しつつある。20年春から制限してきたウサギやヒツジとの「ふれあいコーナー」も、6月以降、元通りの運用に戻していく見通しが立った。
同園の長年のファンで、ヤギやプレーリードッグを毎日のように写真に収めている区内の会社員小野沢恵さん(39)は「動物たちとの距離がとても近く、職員も質問に気さくに答えてくれる。こんなにフレンドリーな動物園はほかにない」と笑顔で語る。
これまでの歴史を伝えようと、園は今月下旬から1980年代から飼育するクモザルなどを紹介したパネルを設置。ファンが撮影した思い出の写真をインスタグラムや郵送で募っており、園内や区立施設で展示する予定だ。長坂さんは「小さな施設だが、ここには生き物と接する機会を与える役割がある。これからも動物と人間がつながるきっかけを提供していきたい」と話している。