2023年1月25日 Newsweek
<煙たがられても政治的発信を続ける、83歳になるジェームズ・クロムウェル。子豚「ベイブ」のおじさんは、逮捕されるほど動物愛護に心血を注ぐ熱血漢。その源泉は?>
過激な抗議行動でたびたびニュースになる動物愛護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々)。この団体の昨年のパーソン・オブ・ザ・イヤーに、俳優ジェームズ・クロムウェルが選ばれた。
この1月で83歳になるクロムウェルはもともと政治活動に積極的だったが、近年はPETAのキャンペーンに頻繁に参加している。そのために逮捕されたことも1度や2度ではない。
2014年にはロサンゼルス国際空港で、エールフランス航空に動物実験用の猿の輸送協力をやめるよう訴えた。19年には、テキサスA&M大学の動物実験施設で抗議行動を行って逮捕された。そして昨年5月には、スターバックスが植物性ミルクに割増料金を課していることに抗議するため、ニューヨーク市内のスターバックス店舗で自分の手を接着剤でカウンターに貼り付けて注目を集めた。
「PETAのことが大好きだ。私が関わってきたなかで、最も倫理的な団体の1つだと思う」と、クロムウェルは語る。
「ありふれた問題や、誰もが避けてきた問題に取り組む(PETAの)決意と勇気と意欲に感動している。人々を不快にさせて、注目を集めようとしているだけだと批判されることもあるが、ちゃんと成果も上げている。私たちの生活に変化をもたらし、動物たちを救っているのだ」
もっと共感を、想像力を
身長2メートルのクロムウェルは、その場にいるだけでちょっとした威圧感がある。「私は(俳優として)顔を知られているし、声が通るし、人前で話すことに慣れている。そんな私の小さな貢献が、変化をもたらせるということを本当にうれしく思っている」
実際、PETAはクロムウェルが参加した抗議行動で、フロリダ州オーランドの水族館シーワールドにはシャチの扱いに関する方針を変更させ、ウィスコンシン大学には猫を使った動物実験をやめさせた(どちらの抗議行動でもクロムウェルは逮捕された)。動物虐待の事実を知って生活を変えてくれる人が1人でもいれば満足だと、彼は言う。
「ジェームズ・クロムウェルは、全ての動物を全身全霊で慈しむ」と、PETAのシニアバイスプレジデント(広報担当)であるリサ・ラングは言う。「彼は、檻に入れてどこかに隠され、搾取され、殺されている動物たちのために戦うPETAの秘密兵器だ」
クロムウェルの政治活動は、動物愛護活動にとどまらない。破綻しつつあるアメリカの行政システムを変えさせるという目標は、彼の活動の原動力になっているという。
「本当にひどい。あらゆるシステムが破綻している。何もかも曖昧にごまかす有害な風潮が蔓延していて、みな何を信用していいか分からずにいる。同じ人間なのに、よその国やよその街で苦しんでいる人たちには共感することがない。彼らがどんな状況にあるか理解しようと、想像力を働かせることができないのだ」
クロムウェルは俳優として数え切れないほどの映画やドラマに出演してきた。この10年だけでも、ドラマ『メディア王~華麗なる一族』『アメリカン・ホラー・ストーリー:精神科病棟』のほか、映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『ベイマックス』など大作に出演している。
さらにさかのぼると、CGを多用した子豚の物語『ベイブ』で農場主を演じてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、『グリーンマイル』『ファーストコンタクト/STAR TREK』といった話題作にも出演している。
人気ドラマで良識を問う
クロムウェルが政治活動に力を入れるようになったのは、1970~80年代に放送された刑事ドラマ『バーニー・ミラー』に出演したときだ。「それなりの成功を収めると、メディアのインタビューを受けるようになる。自分にはその機会を利用して、意見を聞いてもらうチャンスのない人たちの声を届ける責任があると思い始めた」
とはいえ、ハリウッドでは厄介者と思われているに違いないと彼は認める。「業界内では、あまり人気者ではないと思う。レッドカーペットや記者会見で、四六時中同じ質問ばかりされると、うんざりした顔をしてしまうから」
だからインタビュー中に、話をそらすテクニックを身に付けたという。
「例えば、『あの俳優と一緒に仕事ができたのは素晴らしい経験だった』と言った後、『ところで、アフリカで何が起きているか知っているか』と続ける。『あの刑務所での暴動事件については?』『彼らがどんな扱いを受けているか知ってる?』とね。おかげで要注意人物と見なされるようになった」
この春から第4シーズンが始まる人気ドラマ『メディア王』でクロムウェルが演じるユーアン・ロイは、登場回数こそ少ないものの、彼のキャリアで最も重要な役の1つだという。
ユーアンは、一代でメディア帝国を築いたローガン・ロイの気難しい兄。富についてはローガンと正反対の考えを持つ。「当初案では、ユーアンはメディア帝国を手に入れられないからヘソを曲げているだけで、基本的にはローガンと同じタイプの人間として描かれている印象を受けた」と、クロムウェルは言う。
そこで彼は制作陣に掛け合った。「『こんな役はできない。(良識を示す)声になりたい』と伝えた。制作陣は分かってくれたよ。おかげでユーアンは、(弟のなりふり構わぬ経営に対する)道義的な怒りを代弁する存在になった」
このドラマは、実在のメディア王ルパート・マードックとその一家をモデルにしているといわれる。
「マードックと同じように、ローガンのテレビ戦略は有害で危険で、社会を分断する。だから『そんなことはやめるべきだ』と批判する人物を登場させたかった。テレビは真実を伝えなくてはいけないと言う人物だ」
制作陣が自分のアイデアを採用してくれたことに、「とてつもなく感謝している」と、クロムウェルは言う。「素晴らしいドラマになった。何より幸運なのは、その『ノー』を突き付ける人物を私が演じられたことだ」