ダイバーによるジンベエザメへの許されざる振る舞い...SNS動画に専門家から怒りの声 | トピックス

トピックス

身近で起こっている動物に関する事件や情報の発信blogです。

2022年12月4日 NEWSWEEK

 

<絶滅の危険が増大している種に指定されるジンベエザメに対する乱暴な扱いには、専門家たちからも批判のコメントが>

 

マレーシアの海でシュノーケルを楽しむ男性が、野生のジンベエザメに無造作に触れるだけでなく、背中に乗っている様子を映した動画が拡散され、人々の怒りを買っている。動画に映った乱暴な扱いは、絶滅の危険が増大している種にも指定されるジンベエザメの健康に大きな悪影響を与えかねない。

 

■【動画】許される行動ではない...ジンベエザメの背中にのしかかるダイバーの映像

 

マレーシアの英字新聞ザ・スターの報道によると、この男性はツアーガイドとみられている。撮影されたのは11月25日で、場所はボルネオ島の東海岸沖合に浮かぶシブアン島の近くだ。

 

同島が位置するセンポルナ地区のダイバー団体「センポルナ・プロフェッショナル・ダイバー・アソシエーション(SPDA)」のスジミン・イドリス会長は11月26日に声明を出し、「SPDAはすべてのダイビングセンターに対し、資格を有する観光ガイドのみを採用するよう求める」と呼びかけた。

 

「センポルナ地区の観光業者に対し、従業員を適切に教育し、しかるべき意識を持つよう指導することを求める」

 

世界中どこでも、ダイバーは何があっても野生動物に触れないよう指導される。国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅の危険が増大している種に指定されているジンベエザメに、動画に映っているような行為をすることなど言語道断と言えよう。

 

ジンベエザメは、体長が最大で約12メートルに達する。しかし、その巨体とは裏腹に、餌にしているのは微小生物のプランクトンのみだ。人間に危害を加えることは滅多にないが、身を守るために怪我をさせる可能性はある。

 

米動物愛護団体ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル(HIS)の国際メディア担当ウェンディ・ヒギンズは本誌に対して、以下のように説明した。「野生環境で暮らす海洋生物との接触には、常に人間と生物の双方に害を与える可能性がある。病気が感染するおそれもあり、野生動物とダイバーの健康に深刻な脅威となりかねない」

採餌や休息など自然な行動が乱される

「ジンベエザメに直接触れれば、その表面を覆っている保護粘液が損傷するおそれもある。ジンベエザメは比較的おとなしく、動きも遅いかもしれないが、野生環境で人間や船と接触すれば負担やストレスがかかり、採餌や休息などの自然な行動が乱されかねない。普通なら使う必要のないエネルギーを、人との接触に費やさざるを得なくなる」とヒギンズは語った。

 

「野生環境でジンベエザメ・ウォッチングを楽しみたいなら、一定の距離を置いた安全なところから観察するのがいちばんだ」とヒギンズは続けた。

 

ジンベエザメは、餌を求めて水深1000メートルまで潜る。餌を食べた後は海面まで戻り、体を温めたり休めたりしてから再び潜っていく。問題の動画に映っているのは、大事な休息のタイミングであり、男性はそれを妨げていることになる。

 

スウェーデンのイェーテボリ大学で、生態学および人間が生態系に与える影響を研究するダイラ・キャロルは、「ジンベエザメにとって、海面での時間はきわめて重要だ。それは、人間が激しい運動の合間に休憩を挟む必要があるのと同じことだ。その時間を人間が妨害すれば、ジンベエザメにはストレスがかかり、十分に休む前に再び潜らざるを得なくなる」と説明する。

 

「こうしたことが一度起きるだけで、ジンベエザメには、次に潜ったときに怪我を負うリスクが生じる。一生を通じて積み重なっていけば、早死にしたり、生まれる子どもの数が減ったりする状況を招きかねない。つまりこの行為は、絶滅の危険がある生物の減少に直結しているのだ」

動画のジンベエザメには特に悪影響が大きい

動画に映っているジンベエザメには、特にこのことが当てはまるとキャロルは言う。このサメはまだ若いからだ。

 

「ジンベエザメの一生では、ほかのどの年代よりも、若いときこそ、水温の高い浅い海で時間を過ごす必要がある。その時に(動画のような)ストレスのかかる場面に遭遇すれば、このジンベエザメは二度とこのエリアに近寄らないかもしれない」とキャロルは話す。

 

ダイビングやシュノーケリングに挑戦して、邪魔にならない位置から、世界最大の魚類であるジンベエザメを見てみたいと考える人は多い。だが動画の男性の行為は、将来的にジンベエザメの姿を自分の目で見たいと願う人たちにも悪影響を及ぼすかもしれない。

 

「サメは、人間に接近しすぎてしまう場所を少しずつ認識するようになる」とキャロルは言う。

 

「ある場所で、人間がサメに何度も接近しているうちに、サメがそこを避けるようになるのを幾度も目にしている。動画の人物は、サメに害を加えているだけではない。のちのちこの場所を訪れる多数の観光客が、野生動物との出会いで人生が一変するような体験ができる機会をも奪っている」

 

キャロルは、ジンベエザメのような海洋生物と一緒に泳いでみたいと考えている人に対して、こうアドバイスしている。

 

少なくとも4メートルの距離を置くこと。つねに動物の背後か横にいるようにし、前には絶対に出ないこと。可能な限り音を立てないこと。写真を撮るときはフラッシュを使わないこと。カメラのフラッシュは、動物を怖がらせたり、目にダメージを与えたりする可能性があるからだ。

 

「野生動物との遭遇で、何にもまして重要なのは、野生動物と、ほかの人間の両方を尊重することだ」とキャロルは言う。

 

「人間が分別をもって接しさえすれば、サメは健康に長生きできるし、ほかの人たちも素晴らしい出会いを体験できるだろう。野生動物を虐待したり、負担をかけたりすることは、動物にとって害になるだけではない。野生動物を愛する人から、出会いの機会を奪ってしまうことにもなる」