「犬を殺せば賞金」「公園散歩は犯罪」、イスラム教で嫌われる犬たちに変化の時が | トピックス

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2022年12月6日 NEWSWEEK

 

<イスラム教において不浄で不吉な動物と見なされる「犬」をめぐる状況に、サウジアラビアやUAEなどで変化の兆しが見えてきた>

 

「犬を殺した者には賞金を与えよう。1匹につき20シェケル(約800円)だ」 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸ヘブロンのタイシル・アブ・スネイネ市長が11月2日、地元ラジオ局とのインタビューでこう述べると、犬が殺されたり虐待されたりする様子を収めた写真や動画がSNSで広く共有された。

 

動物愛護協会から個人に至るまで、これを非難する声が強まると、アブ・スネイネ市長は「いい考えだと思っただけ」「冗談」などと釈明し、賞金制度は実施していないと否定した。

 

パレスチナ自治区の住民の9割以上はイスラム教徒だ。イスラム教において犬は不浄で不吉な動物とされ、一般に忌み嫌われてきた。 

 

それは、イスラム教の預言者ムハンマドが「狩猟や放牧に使われる犬を除き、全ての犬を殺すように命じた」とか「犬を飼う者は、農耕や放牧のための犬を除き、日々の善行から一部を差し引かれる」「天使は犬のいる家に入ることはない」、あるいは黒い犬について「悪魔だ」と言ったなど、犬についての伝承(ハディース)が数多くあるからだ。 

 

ハディースはイスラム法において、啓典『コーラン』に次ぐ権威を認められている。「犬を殺した者に賞金」という発言が、単なる冗談では済まされない背景がイスラム世界にはある。

 

世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアでは2019年、土足のまま犬を連れてモスク(イスラム礼拝所)に立ち入ったキリスト教徒女性が冒瀆罪で起訴された。

 

モスクという場に不浄な「土」と「犬」を持ち込む行為が「神に対する冒瀆」という犯罪を構成すると見なされたからだ。この女性は精神疾患を理由に有罪判決は免れたものの、冒瀆罪で有罪判決を受けた場合、最高で5年間刑務所に収監される可能性がある。 

 

■テヘランでは公園での犬の散歩が犯罪に 

イランでは首都テヘランの警察が今夏、公園での犬の散歩は犯罪になると発表した。テヘラン在住の獣医はBBCに対し、当局は押収した犬のための「牢屋」まで作ったと述べている。

 

 

かつてイランでは農村から王室に至るまで犬を飼うことは一般的であり、イランは1948年に中東で初めて動物愛護法を制定した国の1つでもあった。

 

状況が大きく変わったのは1979年のイスラム革命後だ。イスラム法学者がイスラム法により統治することになったイランでは、犬を飼うことが「西洋化の象徴」として敵視されるようになった。

 

イラン議会は、ペットの飼育を全面的に制限する「動物に対する国民の権利の保護」法案も検討している。 一方、同じイスラム教国の中でもサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は「犬に優しい国」へと急速な変貌を遂げている。

 

20年にはサウジ初のドッグカフェが東部ホバルにオープンし、飼い主がペットの犬と一緒にコーヒーを楽しむことができるようになった。翌21年には首都リヤドに2号店もできた。サウジでは犬を虐待した男が警察に逮捕されたというニュースも報じられている。

 

UAEのドバイには今年、ペットの犬「だけ」がサービスを受けることのできるドッグカフェがオープンした。

 

サウジやUAEは国家戦略として近代化政策を進めており、「犬に優しい国」への変化は社会の「脱イスラム化」の1つの証左でもある。

 

しかしイスラム教が忌み嫌うものは犬のほかにも多くある。サッカーワールドカップで一躍脚光を浴びたカタールが、同性愛行為を法で禁じているのもその一例だ。 

 

犬をめぐる環境の変化は、「やればできる」という期待と、変化は「犬止まり」かもしれないという危惧も抱かせる。