牝馬の「血液牧場」、動物愛護団体が非難 アイスランド | トピックス

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2022年11月11日 時事通信ニュース

 

【セルフォスAFP=時事】秋を迎えたアイスランドの緑豊かな大草原で、十数頭の妊娠した牝馬が今年最後の血液採取を待っている。

≪写真は、アイスランド・セルフォス近郊の「血液牧場」で飼育されている妊娠中の牝馬≫


 南部セルフォス近郊にあるこの「血液牧場」では、畜産業界で使われる特殊なホルモンを抽出するためだけに馬を妊娠させ、血液を採取している。


 アイスランドで馬が虐待されている衝撃的な動画が1年前にユーチューブに投稿されて以来、動物保護団体は血液採取目的での妊馬飼育に猛抗議している。


 今では業界関係者が取材を受ける際には、匿名を希望することが多い。ある農場経営者(56)は「こうした牧場について、一般市民に完全な理解を促す手だてはない。世論は概して過敏なものだから」と語った。


 血液牧場では、馬から数リットルの血液を採取し、妊娠した牝馬が自然に分泌する妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG、別名「eCG」)を抽出している。このホルモンは世界中の畜産業界で、牛や豚などの家畜の生殖能力を向上させるために使用されている。

 

この事業は、アルゼンチンやウルグアイに加え、欧州ではアイスランドで唯一行われている。また、規模はより小さいものの、ロシア、モンゴル、中国でも見られる。


 昨年公開された動画には、農場労働者が馬を棒で殴ったり突いたりする様子や、犬が馬にかみつく様子、採血後に衰弱した馬の姿などが映し出されていた。中には、囲いの中で拘束具から逃れようともがき、疲れ切って倒れる馬もいた。動画は、アイスランド内外に衝撃を与えた。


 ■高収益の事業
 セルフォス近郊の農場では、牝馬が特殊な木枠内に一列に並び、囲いに入る順番をじっと待っている。馬が動けないよう、脚は板で固定され、頭は口に付けた綱で持ち上げられている。

 

やはり匿名で取材に応じたポーランド人獣医師(29)は、「馬はストレスで暴れることがある。基本的にこういった拘束具はすべて、囲いの中でけがをしないよう馬を守るためのものだ」と説明した。


 局所麻酔の後、頸(けい)静脈に太い針を刺す。この処置ができるのは、認可を受けた獣医師のみだ。8週間にわたり毎週行われ、数分間のうちに牝馬1頭当たり最大5リットルの血液が採取される。


 アイスランド食品・獣医学当局で馬を専門とするシグルドゥル・ビョルンスドッティル氏は「多くの場合、牝馬は採血中、一時的に不快感を示す」と話す。


 7月末~10月初めに行われるこの事業は、高収益が見込める。弁護士でもある上述の農場経営者は、年間1000万アイスランド・クローナ(約1000万円)の利益を上げている。

 

■「崇高な目的」か
 昨年、アイスランドには119か所の血液牧場があった。採血だけを目的に飼育された牝馬は5400頭近くに上り、ここ10年で3倍以上に増えた。


 だが、動画が物議を醸したことで、動物愛護団体の目を気にして事業をやめる農家が出たため、今年は血液牧場の数が減る見通しだ。

 

 粉末状のPMSGホルモンの欧州最大のメーカーで、年間約170トンの血液を扱うバイオテクノロジー企業イステカの社長は、「農家はあの動画から、深刻な打撃と衝撃を受けた」と話す。問題事例があることは認めながらも、隠しカメラで撮影されたこの動画では「過度に否定的な描写がなされている」と指摘した。


 この問題は、アイスランド国内でも議論を巻き起こした。同国ではこの事業が1979年から行われているにもかかわらず、国民の多くが動画で初めてこの事実を知ったのだ。


 アイスランド動物福祉協会の副会長は「これはわれわれの倫理観について考えさせる問題」であり、「単に安い豚肉を安定供給したいがために、家畜用の強壮剤をつくったり、家畜の生殖能力を自然な状態以上に高めたりするのは、崇高な目的とは言えない」との見方を示した。

 

 反対派は、採血量についても批判している。ある野党議員は「動物への残酷な処遇であり、まさに動物虐待だ」と訴える。何度も禁止を提案してきたが、実現には至っていない。


 とはいえ、8月には規制が厳格化され、向こう3年間にわたって当局が業界を監視し「将来性を評価する」権限が強化された。


 当局は今夏、国内の血液農場すべてを臨検したが「深刻な違反はなかった」と結論付け、閉鎖を命じられた農場はなかった。