動物福祉の重要さ意識 サファリでの出会い | トピックス

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2022年7月31日 上毛新聞





 削蹄の仕事を始めて30年以上がたちました。仕事を通して出会った人たちも私の財産です。

 その中の一人に、群馬サファリパーク園長の川上茂久さんがいます。15年ほど前でしょうか。学会の資料作りのため、川上さんを訪ねた時のことです。サファリの園内を動物病院車で巡回していると、脚を引きずって歩く1頭のエルクが目に入りました。これが野生動物の削蹄に関わることになるきっかけでした。

 見るとひづめから血を流し、脚を着くのも痛そうです。川上さんと獣医師の斎藤恵理子さんに聞くと、車にひかれたらしく、硬いひづめが抜けてしまったようです。専門用語では脱蹄と言い、牛や馬でも時々ある外傷です。「特殊なやり方ですが治せますよ」と2人に伝え、早速治療の準備にかかりました。


 偶蹄類の場合、片方に損傷があっても、もう片方が健康であれば、健康な方に特殊な接着剤で木製ブロックを貼り付け、損傷したひづめを地面から浮かせることで治癒を促すことができます。米国や欧州では盛んに採用されている技術ですが、私が削蹄師になった頃の日本では普及が遅れていました。

 装蹄師会の勧めもあり、家畜の削蹄作業の時、獣医師と協力して治療を始めました。後に、本県でこのブロック接着の技術を導入したのは私が初めてだと聞きました。当時は失敗しながらの手探り状態。唯一あったのはドイツの大学教授が実演しているビデオテープだけで、見よう見まねでしたが、蹄病の牛が治って農家から感謝された時は達成感でいっぱいでした。

 馬の世界、特に米国では蹄鉄を特殊な接着剤で固定する接着装蹄が早くから普及していたそうです。装蹄師の大西忠男さんが米国研修の時、日本の競走馬でもひづめが薄くてもろく、くぎで蹄鉄を固定するのが難しい馬がいると現地の装蹄師に話したところ、接着装蹄を教えてもらい日本に持ち帰ったといいます。


 サファリのエルクに適用したのも、このやり方です。牛馬の削蹄技術の基礎があったからこそ、他の動物にも応用できたのです。

 このことがきっかけとなり、その後、さまざまな動物園から削蹄の依頼や相談を受けるようになりました。

 ひづめを持つ動物の生育環境はさまざまです。しかし、私たち人間の役に立っている以上、動物園で飼育されている野生動物でも、そこで快適に過ごせるようにひづめを整えてやることが動物福祉の観点から必要だと考えます。

 さて、前回(6月7日付)の質問の答えです。日本には352種類の絶滅危惧種がいます。世界中では3万7400種の動物が絶滅危惧種になっています。子どもたちにこれらを残していくことが、今を生きる私たちの責務だと考えています。

 【略歴】安中市の工場勤務を経て26歳から牛削蹄師として活動。県内の農家や群馬サファリパークなどの動物園で、ひづめを持つ動物の足をケアしている。富岡市出身。