2022年5月15日 讀賣新聞オンライン
青森県東通村の県天然記念物「寒立馬(かんだちめ)」に、異変が起こっている。尻屋埼灯台付近で例年4~12月に行われてきた放牧が見合わせられ、灯台から離れた一部エリアで柵に囲われて暮らしている。観光客が馬に蹴られるなどの事故が絶えないためだが、観光客からは「さみしい」との声も聞かれている。(古林隼人)
大型連休まっさかりの今月3日。尻屋崎の入り口付近の10ヘクタールほどの土地では、15頭の寒立馬が白い柵の中でたたずんでいた。
尻屋崎では長年、防風林に囲われた一画に馬を集める冬季を除き、約670ヘクタールの敷地内を人と馬が自由に行き来できた。海や灯台を背景にのんびりと草をはむ寒立馬の姿を間近で見られるとあり、多くの観光客を呼び寄せてきた。
ただ、村によると、観光客が馬に蹴られたり、鼻で突かれたりする事故が、毎年1件ほどのペースで発生している。背後から急に近づいて馬を驚かせたり、飼い犬などを放って馬を刺激したりすることが原因だ。
2019年には、未就学の男児が顔などに打撲を負った。村は20年から、馬と距離を取るよう求めるチラシを作って注意を促してきたが、昨年7月には、観光客に近づかれた馬が走り出し、その先にいた別の観光客が顔の骨を折る重傷を負った。馬と衝突した可能性がある。
事態を重く見た村は、この直後から敷地全体を対象とした放牧を中止。今年は初めて、通年で取りやめることにした。村農林畜産課は「村を代表する観光名所なのでこれまで通り放牧したいのは山々だが、安全を最優先した」と苦渋の表情を浮かべる。
観光客の胸中も複雑なようだ。むつ市の地方公務員(47)は3日、「寒立馬は海や灯台とセットのイメージがある。安全のためなら仕方ないが、少しさみしい」と苦笑いした。そこで村は、来年度以降、灯台付近にも柵を設置し、そのエリア内で馬を放つことも検討している。
ただ、柵内での生活が長引けば、柵外で寒立馬が食べる草が減り、尻屋崎内に生息する貴重な植物の生態系に影響を与える可能性もあるという。元通りの放牧再開には、観光客のマナーのあり方が問われることになりそうだ。同課は「柵越しでも馬に触れたりはせず、そっと見守ってほしい」と呼びかけている。