2022年3月13日 河北新聞
東日本大震災をきっかけに行方不明者の捜索に関わり始めた犬がいる。東北文化学園大(仙台市青葉区)経営法学部長の岡恵介さん(64)が飼うラブラドルレトリバーのルカ(雌、12歳)だ。ひたむきなルカの姿は岡さんの生活も一変させ、「人犬一体」で災害に備える日々を送ってきた。
■同じ犬種の活躍に刺激受ける
1日、東北文化学園大キャンパスでルカの訓練があった。芝生に置かれた数個の大きな段ボール箱の一つに、行方不明者役の学生が隠れる。「よし、捜せ!」と岡さんが号令すると、ルカが勢いよく飛び出し、学生が潜む箱の前でほえて岡さんに知らせた。
普通のペットだったルカを変えたのは、震災直後の出会いだ。新幹線も高速道路も不通となり、岡さんは当時住んでいた盛岡市から仙台市に通えなくなった。市内のドッグラン施設で、ルカを運動させながら交通機関の復旧を待った。
ある日、施設で同じ種類の犬を連れた人に会い、話してみると、その犬が震災による行方不明者を捜索する災害救助犬だと知った。
同じ犬種が被災地で必死に働く姿を思い浮かべて、心を揺さぶられた。「家で寝ているだけのルカだが、災害救助犬になれないだろうか」と思い立ち、地元の訓練士の下に週1回、通わせ始めた。
訓練日のルカは普段と違う活発な動きを見せた。岡さんの目には「人助けに一役買おう」という意欲に映った。ルカに触発され、岡さんも災害救助犬に現場で指示を出す「ハンドラー」の訓練を積むことにした。
災害救助犬の試験は2013年の初回は不合格だったが、再挑戦した14年に合格した。岡さんも15年、ルカのハンドラーになるための試験に受かった。
18年9月の北海道胆振東部地震で、ルカと岡さんは行方不明者の捜索に加わった。生存者は発見できなかったが、土砂に覆われ、においを感知しにくい状況でも任務をやり遂げた。
ルカは昨年12月、高齢のため災害救助犬を引退。今は岩手県警の嘱託警察犬として山林での遭難者探しの訓練を続ける。娘のビアンカ(5歳)が昨春、災害救助犬に合格し、後を継いでくれた。
「私が訓練を続けるのは震災を忘れず、次の災害に備えるため。ルカとビアンカの思いも、きっと一緒です」と岡さんは話す。