2022年3月10日 讀賣新聞オンライン
東日本大震災で家族と悲しい別れを経験したのは人間だけではない。飼い主と離れ離れになり、住み慣れた家を失った犬や猫などペットたちがいる。新潟市西蒲区伏部の動物保護施設「あにまるガード」では、被災地で保護された「被災犬」6匹が今も飼い主との再会や新たな出会いを待っている。
施設の桑原武志代表(34)が声をかけると、雄の雑種犬がしっぽを振って駆け寄った。「雪が大好きな子で、雪の中で泳いじゃうの。めっちゃ気持ちよさそうに」。桑原さんはサイダーを見つめながら、「いつまでも元気でいるんだよ」と優しく声をかけた。
サイダーは15歳くらいの高齢犬。被災地で保護され、仙台市の保護施設を経て新潟にやって来た。正確な年齢のほか、どんな飼い主とどこで暮らしていたかもわからない。
震災直後、前身の団体の代表が現地を訪れるなどして、震災時の混乱で飼い主とはぐれたり、避難生活で一緒に暮らせなくなったりした犬や猫などを引き取った。その数は約300匹。
桑原さんは新潟県燕市出身で、震災直後の2011年夏からこの施設で働いている。飼い主と一緒に津波に巻き込まれ、1匹だけがれきに乗って流されているところを助けられた犬、原発事故後、避難した飼い主が自宅に戻れなくなり、置き去りにされた猫――。前身の団体がなくなった後もペットたちを引き受け、スタッフやボランティアと世話をしてきた。
中には飼い主と再会できた子もいる。11年の夏、施設の情報を目にし、「うちの犬がいるかもしれない」と福島の家族がやって来た。犬は家族を見た瞬間、「ウォン」と鳴いて大はしゃぎ。家族みんなで大泣きしながら再会を喜んだ。
その時、家族の1人が隣の部屋にいた犬に目をやった。「近所の犬じゃないか?」。その場で写真を撮り、飼い主に送ると、翌朝一番でやってきた。「首輪だけ残していなくなっていたので、死んだかと思ったよ。無事で良かった」。飼い主は犬をぎゅっと抱きしめた。
だが、「飼い主と再会できた子は運がいい」と桑原さんは言う。施設に保護された被災ペットのうち飼い主のもとに帰れたのは約3割。震災後5年が過ぎると、再会できる子はいなくなり、中には飼い主が見つかっても「もう飼えない」と引き取りを拒否される犬もいた。約5割は新たな飼い主に譲渡されたものの、残りは施設で天寿を全うした。
今、施設に残る被災犬も推定15~17歳と高齢だ。人の姿が常に見えていないと不安がる子や、かみついてくる子など、震災から11年がたっても心の傷が癒えていない犬もいる。「年齢を考えると、最期までここで面倒をみることになるだろう」。桑原さんは覚悟を決めている。
この11年間、保護した犬や猫を「必ず守る」と心に決め、我が子のように全力で愛情を注いできた。だが、「震災がなければ、もとの飼い主ともっと楽しい時を過ごせたかもしれない」と思うこともある。
だからこそ、ペットにマイクロチップを装着したり、災害時には一緒に避難し、万が一の時に預かってもらえる場所を事前に確保しておいたり、飼い主一人一人の意識がさらに向上する必要性を感じている。「飼い主と離れ離れになる悲劇を二度と繰り返さないためにも」。そう願いながら、つぶらな瞳で見つめてくる子たちに、温かなまなざしを返した。(宮尾真菜)
あにまるガードでは、被災犬のほかにも、保護されている犬が11匹、猫が65匹いて、新しい飼い主を随時募集している。問い合わせは、電話(0256・73・3599)、ホームページへ。