2022年2月13日 東京新聞
熱海市伊豆山(いずさん)で昨年七月に発生した土石流災害では、ペットなど多くの動物も被災した。市内の民間団体の活動で多くの命が救われたが、災害時におけるペットの保護を巡る課題も浮かんだ。市は今回の災害を契機に備えを進める方針だ。(山中正義)
市内を拠点に猫の保護や譲渡活動をするNPO法人「くすのき」は、発生直後から被災地で飼い猫や野良猫を中心とした保護に駆け回った。活動がひと区切りした昨年十月までに百五十匹以上を助けた。
活動中には猫たちのさまざまな生死の場面に直面した。被災家屋に取り残され、奇跡的に救助されたり、保護された後に体調を崩して死んでしまったり。被災地に堆積した土砂からは県の調べで基準値を超えるフッ素化合物が検出されたが、フッ素中毒で死んだケースもあったという。
多くの命を救ったが、代表の那須みかさん(61)は「もっと助けられた命はあったはず」と振り返る。ペットは家族の一員という意識が広がりつつあるが、「人が亡くなっている中で、犬や猫のことを口にすることはできない」と自宅などに放置する被災者もいた。救助したくても規制線内に入ることができないジレンマもあった。
保護したり預かったりした飼い猫は、ほぼ飼い主などの元へ帰り、野良猫の多くも伊豆山へ戻った。しかし、くすのきには自宅を失って飼うことができないと引き取ったり、飼い主に捨てられたりした猫たちが今も残る。
那須さんは「これからは保護している子を譲渡しないといけない。里親を見つけるのが大変」と話す。
災害時におけるペットの保護を巡っては、東日本大震災を機に環境省がガイドラインを作成。飼い主がペットと逃げる「同行避難」が原則となった。熱海市の地域防災計画でも言及されているが、備えは不十分で、市の担当者も「(避難後のペットの)受け入れ態勢が取れておらず、飼育場所の準備も徹底できていなかった」と認める。
土石流では発生直後を除き、市内のホテルが避難所になったことでペットとの同居は困難になった。そのため、飼い主はくすのきやペットホテルに預けるなどしたが、中にはペットと車中生活を続けた被災者もいたという。
市の担当者は「今回のことをきっかけに対応を準備している。同行避難の訓練も始めたい」と話す。
また、災害時には飼い主が分からないペットを保護するケースもある。そうした際に役立つのがマイクロチップで、今年六月からはペットショップなどで販売される猫や犬への装着が義務化される。専用機で読み取れば、データベースに登録された飼い主の情報と照合できる。
くすのきが今回保護した中ではチップを装着している猫はいなかったといい、普及はまだこれから。那須さんは「災害時は首輪は取れる可能性があるのでチップが頼りになる。死んでも識別できる」と装着を促す。