ワンヘルスは、野生動物由来で人間社会に広がった新型コロナウイルスのような「人獣共通感染症」などに対処する理念。自然環境や生活の変化に伴う人間と動物の接近が一因とされ、ペットとの適切な距離なども議論の対象となっている。
基調講演では、世界保健機関(WHO)健康開発総合研究センター(神戸市)の茅野龍馬医官が、2015年に韓国で38人が亡くなった中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)がラクダ由来で人に広がった経緯を紹介。「MERSも新型コロナのように広がってもおかしくなかった。心配されてきたことがついに2020年に起こった」と指摘した。
蔵内勇夫・日本獣医師会長は、野生のコウモリのウイルスだった新型コロナが、他の動物を介して人に感染した可能性を紹介。インフルエンザなど、野鳥由来のウイルスが豚の体内で変異し、人間に感染するようになる仕組みがあることも指摘し、国内では家畜に比べて野生動物やペットのウイルス感染を調べる法律が抜け落ちているとして、法整備が必要だと話した。
医師らによる対談では横倉義武・日本医師会名誉会長が登壇。「ワンヘルスの理念を子どもや若い世代に理解してもらうことが重要だ」と話し、ペットを通じた教育や、校医を務める医師らによる普及啓発を進める重要性を訴えた。
フォーラムは、医学と獣医学共同の研究拠点「アジア防疫センター」の誘致などを進める県などが主催して初めて開催した。コロナ禍のため無観客開催となったが、蚊やマダニが媒介する感染症の脅威など、国内外の研究者約30人による講演が無料でネット配信されている(https://one-health-fukuoka.net)。(竹野内崇宏)