
「獣医師として、これからも動物愛護実践の先頭に立ちたい」。青森県十和田市などで2020年にロケが行われた映画「犬部!」の主人公のモデルとなった獣医師・太田快作さん(41)=東京都=が電話取材に応じ、同市の北里大学獣医畜産学部(当時)在学中から変わらない「命を守ることへの熱い思い」を語った。映画は21年公開予定。多くの人に見てほしいと期待を寄せる。
学生時代、犬や猫の殺処分を減らそうとサークル「犬部」を創設。捨てられた犬や猫の保護。新しい飼い主探し。仲間と一緒に寝食を忘れて取り組んだ。
当時、獣医師の資格を取るためには、殺処分用の犬を使って解剖する外科学実習が必須だった。太田さんは強く抗議して大学当局と対立した。現在、同大学の実習は、生きた動物ではなく皮膚・内臓・血管の模型などを使う「代替法」に変更されている。
太田さんは「もともと動物を、家畜という、人間が利用する資源としてしか見てこなかった歴史があり、獣医学教育においても動物愛護や福祉を学ぶ機会がなさすぎた。『殺してもいい動物』と『殺してはいけない動物』があるのではなく、原則、全ての命は守られるべき。どうしても仕方ない場合にのみ、命をいただく-ということをきちんと教えなくては」と語る。
環境省によると18年度の全国の犬・猫の殺処分数は約3万8500匹。1974年度の約122万匹に比べると大きく減り、愛護への国民の意識が高まったといえる。その一方で、ペットを手放す人に対してネットなどで過剰に攻撃しがちな傾向があることを、太田さんは懸念する。
「追い詰めてしまうと命が救えなくなる恐れがある。動物と一緒に暮らせなくなる事情はさまざま。相談できる場を増やして譲渡などにつなげることが大事。人の弱さを分かってあげられる社会になれば、4万件くらいの殺処分なんてゼロにできる」
映画については、制作者から事前に脚本も送られてきた。「動物愛護のいろんな要素を上手に盛り込んだストーリーだった。主演の林遣都さんのキャラもいい。多くの人が動物愛護に関心を持つきっかけになればいいなと思う」
学生生活を振り返り「十和田は大好き。公園がたくさんあって、犬が飼いやすくて…思い出すのは犬部のことばかり」と笑う太田さん。世界的な新型コロナウイルス感染拡大など先行きが不透明な時代に、獣医師を目指す後輩たちにエールを送る。
「学生時代は時間があり体力もある。むちゃができる貴重な時期。失敗して悔しがってもまた立ち上がればいい。古い枠にとらわれず、もっと挑戦して。自分自身を成長させてほしい」
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<おおた・かいさく 東京都出身。十和田市の北里大学獣医畜産学部(現・獣医学部)獣医学科を2006年に卒業後、首都圏での動物病院勤務を経て、11年12月、東京都杉並区に「ハナ動物病院」を開業。病院名は、十和田時代に保護し、長年のパートナーになった愛犬にちなむ>
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映画「犬部!」 十和田市の北里大学獣医学部に実在した動物愛護サークルをモデルにした映画。篠原哲雄監督、主演は林遣都、中川大志ら。「リスクがあると分かっていても、問題に立ち向かうことの素晴らしさと、その先にある希望」を描く。同市官庁街通りや同学部などで撮影が行われた。2021年公開予定。現実の「犬部」や太田さんの取り組みは、ノンフィクションやコミックスで出版されたほか、テレビのドキュメンタリーで取り上げられた。