家族は「虐待はしていない」と
それでも家族は「虐待はしていない」と訴え続けた。
河野さんは彼らに「愛護法違反のネグレクトであることをきちんと認識する必要がある」と伝えたが、
「“猫は家族といれば幸せ”と考えていましたので、幸子さんと由美さんは猫がいなくなった後、寂しくて毎日泣いていたそうです。典型的なアニマルホーダー(適切でない多頭飼育をやめられない人)の特徴です」
不思議なのは、大人が複数人いても誰も飼い方を指摘しなかったことだ。
「猫のことは職場の人や友人、周囲には隠していました。秘密を共有することで家族の団結が強まっていた。仲は非常によかったので。早川さん一家に限らずプライドや世間体を気にして相談できなかったり、無知や金銭的な事情が多頭飼育崩壊、悪意のないネグレクトにつながっていると考えられます」(前出・同)
猫は、捕獲も保護したあとの世話、避妊・去勢手術、保護団体や里親への譲渡、すべて保護団体やボランティアが行った。あまりにも多くの猫の保護。まずは行政に連携を相談したというが……。
「私たちが手術のお手伝いや保護の協力をします、と何度訴えても行政や愛護センターは“全頭受け入れたらすべてがストップする”などと。おまけに県の担当者からは“あなたたちが勝手に保護したいと言った”と言われました」
そう石丸さんは憤る。
行政は猫の保護に動物愛護センターの一角を使うことはしぶしぶ認めたが、保護団体がいくら訴えても「虐待」とは明言せずノータッチを決め込んだ。
そこで石丸さんや河野さんはSNSなどを通じて支援を募った。すると全国から350万円以上の寄付や物資が集まり、手術や猫の飼育に使われた。
行政は最後まで重い腰を上げることはなかったという。
悪質な場合はきちんと法で裁かれる必要がある
動物愛護に詳しい細川敦史弁護士に多頭飼育崩壊について法律的な観点から聞いた。
「飼い主がいくら“可愛がっている”と言っても客観的な虐待の状況や周辺環境に著しい問題を与えていれば基本的には愛護法違反となります」
多頭飼育崩壊のネグレクトは動物愛護法25条と44条2項が適用される。昨年6月に改正された同法では、ネグレクトをした飼い主に対して1年以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられる。ネグレクトを繰り返せば刑罰は重くなる。ケースによっては公判請求されて執行猶予がついたり、懲役になる飼い主が出てくる可能生もあるという。
「前例がないためネグレクトをした飼い主はいつまでたっても略式裁判で罰金を支払うだけ。そんなふざけた話はありません。故意的にネグレクトを繰り返す、悪質な場合はきちんと法で裁かれ、処分を受ける必要があります」
しかし、刑事罰だけでは問題は解決しない、とも前出・細川弁護士は指摘する。
「社会から孤立している人たちが多頭飼育するケースが多く、誰にも相談できずに動物が増えてしまう。ですから福祉分野の専門家と連携し、解決しなくてはいけません。厳しく処罰すればいいという考え方もありますが、まずは犯罪者にさせないことです」
無責任な飼い主に猫を渡す人も問題
前出・川崎さんも訴える。
「悪質な事例や、正常な判断ができなくなって問題が起きている場合があります。ですので動物を緊急保護できるシステムを作ること、飼育を禁止する罰則を盛り込むべきときにきています」
多頭飼育は再犯率が高い。猫を取り上げてもその後の指導やフォローがなければ里親募集などを介して再び集めてしまうからだ。
「無責任な飼い方をする人に猫を渡してしまう人がいることも問題だと思います」
『群馬わんにゃんネットワーク』の飯田有紀子代表は訴える。飯田さんらも数件の多頭飼育崩壊現場を抱えている。
一連の問題には国も危機感を抱いており、環境省は年度中に多頭飼育に関するガイドラインを作成する予定だ。
河野さんらは多頭飼育を早期発見、崩壊を防ぐためにも、神奈川県内の各市町村で相談会を開催。愛護団体、ボランティア間の連携作りなどの体制を整えるという。動物行政とボランティアが連携し介護や社会福祉、民生委員らとも協力、飼い主への福祉的なアプローチも目指す。
「まだまだ現状を知らない人もいると思うので写真展などを通し、啓蒙活動をしていきます」(前出・門倉さん)
行政に対しても今回の反省をふまえ、多頭飼育崩壊の通報があれば市町村と保険福祉事務所が一緒に行って調査。その後、動物愛護推進員やボランティア、保護団体が連携して現場に対応ができるような仕組み作りも課題だ。
神奈川県警海老名署は11月26日、早川夫妻を動物愛護法違反の疑いで書類送検した。2人は容疑を認めている。
一方、保護された猫たちは新たな飼い主のもとで新生活を送ろうとしている。
多頭飼育崩壊の悪循環をどこかで断ち切らなければ人間・動物、互いの不幸は続く。