近隣住民によると、民家では5、6年前から異臭や騒音が問題に。6月下旬には、県警生活経済課などが、排せつ物などが堆積した空き家で数十匹の犬を飼育したとして、住所不定の会社員の男(56)を動物愛護法違反の疑いで逮捕した。犬66匹を確認したという。
県警などによると、木造2階建ての天井や床が抜け落ち、1、2階に数年分とみられる排せつ物や餌の残り、犬の毛などが堆積していた。数トンにも上るとみられ、高さ50センチほど積もった場所もあった。
それから2カ月超。鳴き声はなくなったが悪臭は変わらず、自治会長の男性は「早く撤去してほしい。せめて消毒だけでも」と訴える。
民家は男の所有ではなく、市は所有者や権利者の確認を進めてきた。市の担当者は「権利者は『全面的に協力したい』と話すが、単独で復旧するのは困難と判断している」と説明。逮捕された男は「復旧の意思はない」と打ち明ける。
解決策として残るのは、行政が強制的に撤去する代執行。ところが、市が弁護士と相談した結果、汚物処理や消毒作業の代執行を適用する法律がないという。
動物愛護管理法第25条では、都道府県知事は動物の飼養や給餌などで生じる騒音や悪臭で、周辺の生活環境が損なわれた場合、事態を生じさせた者に必要な指導や助言ができるとされる。
しかし、所管する県の担当者は「法律は動物の適正な管理指導が目的。該当民家には動物がおらず、この法律には当てはまらない」と否定する。
放置すれば倒壊の恐れがあると「特定空き家」に認定し、空き家対策特別措置法で建物を撤去することも考えたという。ただ、そうすると所有者らに撤去や修繕の指導、勧告、命令を出す必要があり、相当な時間がかかるという。衛生状態が悪い中で作業を請け負う業者を探すのも難しい。市の担当者は「このままではいけないとは分かっているが、どうすればいいのか」と声を落とした。